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「あーあ、」

風音に追い出されるようにして、俺はポケモンセンターを出て来た。
特に行く宛てもなく、ぶらぶらと街を歩く。

前にここに来たとき俺はまだチコリータで、見るものすべてが大きく見えたんだ。
…ああ、そういえば進化したのもコガネだったよなぁ。

「カナエちゃん、まだあそこにいるのかな」

コガネを出る前に、ちゃんと挨拶しときたいからってカナエちゃんは、あのカイトって人のところに行って。
気まずいってわけでもないけど、以前の引け目ってーの?
何となくもやっとしたから、部屋に残ってた。

「何やってんだろなぁ、ほんと」

別に、あの人が嫌いなわけじゃないんだ。
ただ、俺たち以外にカナエちゃんがあそこまで心を許してるっていうのが…少し、もやっとするだけ。

「ばっかみてぇ」

小石を蹴り上げると、ぽちゃりと排水溝に落ちた。

「翡翠、」

「え…うわ、蒼衣!」

突然俺に声をかけた犯人は、蒼衣……あれ、そういえばカナエちゃんたちと一緒に出たはずなのに、見当たらない。

「カナエなら百貨店だよ。午前中、風音となぎに頼み忘れたのがあるからって」

すかさず俺の考えを察知して、蒼衣はカナエちゃんの居場所を言った。
なるほど、それなら蒼衣が一人で出て来たのも納得。
(人込みがひどいと、蒼衣も能力の制御が大変らしい)

道の真ん中で立ち話もなんだから、道路脇へと身を寄せる。

「カイトが、翡翠にもよろしくって言ってたよ」

「ああ…うん」

歯切れの悪い俺の返事に、蒼衣は小さく笑った。

「翡翠、それは嫉妬?」

いつだったか、カナエちゃんに言われたことを思い出した。
嫉妬…なのかもしれない。
あのときの俺は小さくてまだその感情の名前がよくわからなかったけど。

「極端な話をするとカナエちゃんがさ、俺たち以外の人に、あそこまで信頼を寄せてるのが悔しいんだと思う」

「…それを"嫉妬"っていうんだよ、翡翠」

ああ、やっぱそうなのか。
そう指摘されても戸惑いはなく、妙にあっさり納得できた。

「でもさ…あ、」

ふと、口を開きかけたとき。

「やあ、追い付いてよかったよ」

話題に上がってたその人、カイトが小走りでやってきた。

「蒼衣くんに…もしかして翡翠くん、かな?」

そういえば前に会ったのはチコリータのときで、進化してから会うのは初めてだっけ。
突然のことに驚いて頷くと、カイトは「よかった」ともう一度言った。

「カイト、どうしたの?」

「ああ、そうだ。カナエちゃん、忘れ物したみたいでさ。届けてもらってもいいかな?」

そう言って手渡されたそれを受け取ると、見覚えのあるポーチ。
…カナエちゃん、前もこれ前も落としてなかったっけ?

「じゃ、オレ勤務中だから戻るよ」

そう言ってカイトは踵を返す。

「…あ、」

言わなくちゃ。小さな意地を張って、言えなかった言葉。
去り行く背中に向かって、

「ありがとう!」

振り返ったカイトの口が言葉を紡ぐ。

"どういたしまして"

「やっと言えたね、翡翠」


ありがとう。
カナエちゃんと出会うきっかけをくれて、ありがとう。
人込みに紛れた背中に、小さくもう一度呟いた。


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