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「あら?翡翠、カナエたちはどこ行ったのよさ」

「あー、おかえり。なんか、コガネを出る前に行きたいとこがあるんだってさ」

ベッドに転がりながら、翡翠はそう言った。

「珍しいわねぇ、アンタが着いて行かないのって」

「うーん、まあ、いろいろ」

返ってきたのは、そんな曖昧な返事。
ふぅん、と荷物を放り出して、ぐいと大きく背伸び。
ぷつ、と肩の傷痕の皮膚が突っ張った。

痛みはない。
気にならないと言えば嘘だけど(だってアタシの着物じゃうまく隠れないんだもの)、まあ別に大した問題じゃあない。

「やっぱ気になる?」

鏡で肩を見てると、翡翠が突然そう言った。

「べっつにぃ?」

あらヤダ、アタシってば。
翡翠に見透かされるだなんて、末代までの恥じゃないのよぅ。

「やっぱ痕残るんだ」

「まぁねぇ」

コラッタの前歯でつけられた傷だから、それなりに刔られてたわけだし?

「風音が気付いてたかわかんないけどさぁ、」

突然、翡翠がそう切り出した。

「あん時風音を見つけたの俺なんだよね」

「あらま。そうだったの?」

あのときのアタシはコラッタの縄張りから離れるのに必死で、周りを見る余裕なんてなくって。

とにかく、逃げることに必死だった。
近付いてくるものは皆敵に見えた。

でもカナエは、そんなアタシを治療してくれた。
あのときの手当がなかったら、もしかしたらアタシは飛ぶことができなかったんじゃないか…そう、最近思ったりもする。
もちろん、野生として生きているからにはそれなりの治癒力はあるんだろうけどさ。


「まあ、アンタにしちゃあいいことしたんじゃないの?」

「俺にしては、ってどういう意味だよ!」

「どうもこうも、そのまんまじゃないのよぅ」

だってアンタ阿呆だし。
でも、まあ、


「     」


「え?」

「なんでもないわよぅ!ほら、天気いいんだから光合成でもなんでもしてきなさいよぅ!」

あんまり見てるとセクハラで訴えるわよぅ、と言ってやると、すぐさま
「それは俺が言いたい。主に炬に」
と返ってきた。
まぁ、それもそうだわねぇ。

「ま、いいや。ちょっと出ようかなって思ってたとこだし」

「はいはーい、いってらっしゃーい」

ひらひら手を振ってやると、翡翠はちょっと眉を寄せた。

「ちぇ、邪魔者かよー」

ぶちぶち文句を垂れながら、翡翠は部屋をあとにした。
だって面と向かって「ありがとう」なんて、気恥ずかしいじゃないのよぅ。


アタシをみつけてくれて、ありがとう


この出会いに、感謝を。


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