2 カチャリ。 扉が閉まる音を確認して、身を起こした。 床で寝てるカザらを踏まんように避けて、窓際へと近付く。 お月さんは真上。 「まさかほんまに会え…はせんかったけど、居場所がわかるとはなぁ」 ばりばりと頭をかいて、一人ごちた。 さっきカナエからかすかにした匂いは、間違いなく見知ったアイツのもんで。 一瞬、えもいわれん懐かしい気持ちになったんを、今でもはっきり覚えとる。 …最初は、あの森の中から出られたらそれでよかった。 別に誰でもええっちゃええんやけども、そらできることならあたしの気持ちがわかるに越したことはあらん。 アイツは待っても帰ってこんし、一人で旅するにはガーディという体はちっとばかり不便や。 (なんせどこぞのトレーナーに喧嘩売られて、ボールのひとつでも投げられたらそこまでや) アイツがおらんようになってしばらくして、その日はやってきた。 いつもみたく、ふらふらと草むらを歩いとったら、目の前にちっさい袋が落ちとった。 ちょっと確認してみたら、まだ落としてから時間はそう経ってそうもない。 まあ、駄目で元々いう言葉かてあるし。 街の入口らへんにでも置いたろかとくわえた途端、ちっさい丸いんが転がり出た。 なんや甘い匂いのするそれは、前日から何も食べてへんで空腹のあたしには魅力的な匂いやった。 やから、ひとつだけ。 そう思うて、それを口にする。 腹の足しになりそうもあらんけども、ここしばらく口にしとらんかった甘さに小さな満足を覚えた、次の瞬間。 ぐらり。 視界が、突然暗転した。 なんとも言えん、不思議な感覚。 やけどもそれは一瞬のことで、すぐにいつもの感覚を取り戻す――いや、いつもとまったく同じとはちゃうかった。 視界が、高い。 それに、いつもは地面についてるはずの前足が自由。 そら最初は驚いたけど、逆に考えたら好都合。 これでアイツを探しに行ける…そう、思ったとき。 袋の持ち主の匂いが、近付いてきて―― 「まあ、あんときはこうなるなんて思ってへんやったしなぁ」 クク、と笑いが漏れる。 「――炬ちゃん、」 声のした方を振り向くと、なぎっちゃんが身を起こしとる姿。 「悪いね、起こしてしもた?」 するとなぎっちゃんは小さく首を振る。 「私も、あまり眠れなくて」 「さよか」 しばしの沈黙。 それは長くは続かんかった。 「炬ちゃんは、カナエちゃんについてきて…よかった?」 「なんやの、またえらい急に」 「ごめんね、ちょっと聞こえたから」 何が、とは言わん。 「まあ…せやな、」 でなかったら、経験できんこともようさんしたし…それに、 「また、いつか会えるわ」 にこりとなぎっちゃんは微笑んだ。 照れ臭ぁて窓の外に目を遣ると、いつの間にか雲間からお月さんが顔を出しとった。 |