2 ガキの頃から、できねぇことなんて何もなかった。 勉強は当然、スポーツや芸術。 大人はオレを「神童」だと誉め讃え、周りのガキ共は「天才」だと一目置いていたが、オレにとっては正直どうでもいいことだった。 むしろこの程度のことができない奴らが馬鹿みてぇで、次第にオレは張り合いをなくしていった。 ただ一人、ランスを除いては。 あいつぁ他の連中とは違う。 オレを持ち上げることなく、むしろオレを越えようとするヤツがいるとは。 周りのランス以外の連中がハナからオレに敵わねえと諦め、なあなあで寄ってくる中、ランスはオレを"好敵手"として見ていた。 まあ、ちょっとばかり生真面目なのが珠に傷といえばそうだが、それも引っくるめてあいつと居るのは気が楽だった。 性格も境遇もなにもかも違ったが、何故だか妙にウマが合った。 だがやがて、そんな日々も退屈へと風化していく。 オレは刺激を欲していたんだ。 そんなある日、たまたまオレはロケット団が何かやらかしているのに出くわした。 奴らは歩み寄るオレに気付き逃げようとしたが、逆にオレはこう言った。 「おもしろそうだな、オレも交ぜてくんねぇか?」 別に本気でおもしろそうだと思ったわけじゃなかった。 ただ、日常の退屈くらいは紛れるかと。 それくらいの好奇心だった。 だが、ロケット団は意外にもオレの求めていた刺激を満たしてくれた。 もしかしたら心の奥底で、こういうのを求めていたのかもしれない。 しかしまあ、悪いことっつーのはすぐ目をつけられるモンで、活動が活発になってきた矢先に警察の監視が厳しくなってきやがった。 別にロケット団にそこまで執着があるわけでもなし、ヤバくなったら逃げようかと、そんなことを考え始めた。 正直幹部になって、ああまたこんなモンかと張り合いをなくしてきたところだから、そろそろ潮時かと思い始めたそのとき。 ヒワダの任務から帰ってきたランスから、おもしれぇヤツがいたという話を聞いた。 (もちろん、ランス自身がおもしろいと言ったわけではないが) チョウジの作戦中に、偶然とはいえそいつに会うことができたのは、ラッキーだとしか言いようがない。 ランスに変装したのは、ちょっとした悪戯心ってやつだ。 ランスから聞いていた通り、なかなかにおもしろい。 ここで、ふとオレにまた悪戯心が芽生えた。 ロケット団でありながら、こいつに手を貸す。いつ裏切りがバレるかわからない背徳感とスリル。 それこそ、最高の刺激じゃないのか? 案の定、あいつはわからないといったツラをしていたが、まあ当然だろうな。 コガネでの作戦が終わったら、オレはロケット団を抜けるつもりだった。 だから最後に置き土産じゃねえが、あのヒビキとかいう小僧にキーを渡し…そのまま、宛もなくコガネを離れた。 間もなくしてロケット団が解散だか何だかしたらしいという噂を耳にした。 まあ、当然だろうな。そのうちの何パーセントかはオレのせいだ。 ビルの屋上で街を見下ろしながら、ふとそんなことを考えた。 おもしろいわけじゃねえが、なぜだかクツクツと笑いが漏れる。 ああ、また退屈な日々が始まりそうだ。 |