3 呆然とする私を一瞥し、アポロさんは話を続ける。 「私にとってサカキ様は、恩人であり父親も同然。そんなサカキ様の野望を…私は、何としても叶えたいのです。例えそれが――」 どんなことであろうと、と。 アポロさんの言いたいことはわかる。 自分にとっての恩人に、大切な人に何かを返したいというその気持ちも。 ……でも、 「間違ってると思います。アポロさん…あなたのやり方は」 例えどんな理由があっても…人やポケモンを傷付けるなんて、間違ってる。 「サカキさんがあなたにとって恩人だというのなら、今度はあなたが間違った道に進まないよう導く…叶えるだけが礼を返すことじゃない、道を正すのもまた、礼を返すことじゃありませんか?」 「…わかっています、それくらい。それでも、私にはこれしか方法がないのですよ。サカキ様は3年前…突如私達の前から姿を消してしまったのですから。ロケット団を再興し、サカキ様を待つ…これが私にとっての礼であり、正義です」 きっぱりと。 アポロさんは立ち上がって私を見据えて、そう言い放った。 彼の覚悟は揺らがない。 「……私も、」 言うつもりはなかった。 でも、言葉はもう止まらない。 「私も、物心ついた頃から両親がいませんでした。それでも私の両親代わりの人は、志を継ぐよりも私の好きに生きて欲しい…真っ直ぐ生きて欲しいと、言ってくれています」 私もベンチから立ち上がり、真っ向アポロさんを見据える。 「平行線…ですね。元より、わかっていただけるとは思っていませんでしたが…」 仕方ありません、と溜息ひとつ。 しばしの沈黙の中、私とアポロさんは睨み合う。 すると、アポロさんは突然何かを閃いた素振りを見せた。 「では、勝負をしませんか?1対1の勝負で、貴女が勝てば我々はジョウトから手を引きましょう。そのかわり、」 一歩、二歩。 アポロさんは、私から少し距離をとる。 「私が勝てば、我々の邪魔をしないでいただきたい」 それは、ジョウトのこれからを私が決定するということ。 そんなこと…、 「でき、」 「もしこの勝負を断るというのなら、貴女に私達を止める権利などありません」 ――選択肢なんて、あるわけがなかった。 だって、私はこのジョウトでたくさんの大切なものを得た。 そのジョウトを、守りたい。 ロケット団の再興がアポロさんの正義なら、私の正義は…、 「……わかりました」 元々、ここに来たのだってロケット団を止めたいからだ。 なら、私は。 絶対に、負けられない。 |