5


『…っは、』

垂の息が荒い。
垂対ラフレシア…お互いがお互いの弱点を付き合い、勝負は混沌としてきた。
だけど、垂には先程のヤミカラスとの疲れも蓄積している。
そろそろ垂を休ませないと…、

「ラフレシア!毒の粉!」

――虚をつかれた。
垂をそろそろ休ませるかと思考を少し反らしたその瞬間。
アテナさんは、そこを逃さなかった。

『か…はっ、』

ラフレシアの毒を吸い込んだ垂は、がくりと崩れ落ちる。

「垂!」

私は垂に駆け寄り、その体を抱き起こす。
垂…しずり、

『ごめんなさいね、カナエ』

か細い声で垂は言う。

「ううん、ゆっくり休んでて」

垂の体をそっと撫で、ボールに戻してやる。
あとでモモンの実を食べさせないと…、

目の前のアテナさんは口角を上げ、笑みを浮かべている。
どうしよう…、

「風音、」

やっぱり相性を考えると風音に任せるべきか。
そう思って風音の居るボールに手をかけた、そのとき。

カタリ――

その隣のボールが揺れた気がした。
それはまるで、自分が出ると…そう訴えかけるように。

一瞬、躊躇った。
だって、このボールは…、

「あら、カナエちゃん。もう終わりかしら?」

出直してらっしゃいな、とアテナさんはクツクツと笑う。
……迷えない、迷わない。
私は、彼女を信じるから…、

「頼んだよ、炬!」

一度、彼女はラフレシアに負けた。
でも、今の炬はあのときの炬とは違う。
乗り越えた。
弱かった自分を、乗り越えた。
だから、私は炬を信じる。

『…あら、貴女。どちらかと思えば、あの時のガーディじゃありませんこと?』

『ああ、せや。あんときは世話ンなったなぁ』

『おぉ、怖い。そんなに威嚇しなくてもいいのでは?』

『すまんな、性分でな』

は、と吐き捨てるように炬は言う。
それが、始まりのきっかけだった。

「ラフレシア!毒々!」

「炬、かわして火の粉!」

ラフレシアが猛毒の液を炬に向かって放つ。
しかし炬は間一髪、かわしてラフレシアの回りに火の粉を吹き付ける。
ラフレシアは火の粉を避けようと、左右に体を動かす。

ぎり、とアテナさんは奥歯を噛む。

「ラフレシア、何やってるのよ!早く仕留めなさい!」

『はい、マスター。申し訳ありません、』

ラフレシアの言葉は、アテナさんには届かない。
アテナさんは腕を組み、苛々と小刻みに足を動かす。

ラフレシアは再度炬に向かって毒を放つ。
しかし炬はその攻撃も難無くかわし、ひょいと身構える。
よし、調子がいい…!

「炬、」

火炎放射で一気に攻めよう…そう思った、そのとき。

「ラフレシア!目覚めるパワー!」

『はい、マスター』

あのときの光景が、脳裏に蘇った。


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