3


「いらっしゃい、カナエちゃん」

階段の先。
そこにいたのは、

「アテナ…さん、」

チョウジで出会った、ロケット団幹部のひとり。

「待ってたわよ、アナタならきっと来ると思ってたわァ」

ニィ、と、アテナさんはあのチェシャ猫のような妖艶な笑みを浮かべる。
全身に、緊張が走る。

「あらァ、そんなに緊張しないでよ」

クスクスと、アテナさんは笑い、近付いてくる。
そして、私の頬に手を添える。
その手は、ぞくりとするほど冷たい。

「アナタはアタシたちにとっては欝陶しいけど、アタシ個人としては気に入ってるのよ?」

だから、とアテナさんは続ける。

「ねぇ、もう一度聞くわ。アタシたちと一緒に来ない?」

くらりとするような香水が鼻をつく。

「断る…と、言ったら?」

するとアテナさんは、さもおかしそうに吹き出す。

「あら、そんなの決まってるじゃない…ここでアナタを倒すだけよ」

気に入ってはいるけど、任務の方が大切だもの、と。
そして、私から離れ、視線を合わせる。

「やっぱり交渉決裂、ね」

「えぇ…やっぱり、貴女たちの方針とは合いそうにありませんので」

残念だわ。そう一言吐き捨てて、アテナさんはボールに手をかけ、

「ヤミカラス!行きなさい!」

次の瞬間、ボールを放つ。

「垂、お願い!」

『まったく…しつこい連中ね!』

そして、対峙する。

「ヤミカラス!つつく!」

先に動いたのは、アテナさん。
ばさ、と羽ばたいてヤミカラスは勢いをつけ、垂めがけて急降下する。

「垂、避けて凍える風!」

垂は動かない。
ぎりぎりまでヤミカラスを引き付けて、ぐるんと体を回転させ、ヤミカラスの攻撃をかわし、

『いい加減、諦めたらどう?!』

言うが早いか、ひゅ、と冷たい風が走り抜ける。
それはヤミカラスに纏わり付き、彼女は動きを鈍らせる。

「ヤミカラス、黒い霧!」

すると突然、どこからか黒い霧が発生し、ヤミカラスを覆い隠す。

「垂、油断しないで…、」

『えぇ、わかってるわ』

緊張が辺りを支配する。
その均衡を破ったのは、アテナさんの声。

「ヤミカラス、不意打ち!」

垂は目の前の黒い霧のかたまりを見据える。
どこから…どこから来る?

ひゅ、と風を切る音が聞こえた。
それは、頭 上 か ら 聞こえてきた。

「垂!」

やられた…!
黒い霧は目眩ましだったんだ…!
ヤミカラスは黒い霧に隠れたと思わせて、頭上に飛び上がったんだ。

『くっ…!』

『ほら!さっさとくたばっちまいなよ!』

完全に読み違い、不意をつかれた垂はヤミカラスの攻撃をモロに喰らう。

「いいわよ、そのまま追い討ち!」

『サヨナラしなさいよ!』

キャハ、と高らかに笑い、ヤミカラスは急降下する。

「…っ!」

――そのとき。


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