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「……あのさ、カナエさん」

不意に、ヒビキくんが言い出し辛そうに口を開いた。

「なに、ヒビキくん」

ヒビキは少し悩んで、そして思い切ったように口を開いた。

「オレ、あいつ…シルバーともう一度ちゃんと話してみたいんだ!今ならまだその辺に居ると思うし…だから、」

「いいよ、行っておいでよ」

多分、一緒に先に進めないことに引け目を感じていたんだろう。
確かにひとりで先に進むのは不安だけど、まったくのひとりじゃない。
私には、みんながいる。
それに多分、ヒビキくんは今行かなかったらすごく後悔すると思うから。

「ありがとう、カナエさん!」

ヒビキくんはぱぁっと顔を明るくして、そして走り出す。

「あとで追い付くから!」

カカカッと勢いよく階段を滑り降りる音が響き、やがてその姿は見えなくなる。

「さて…と」

あっという間に元通りになり、私は小さく気合いを入れ直す。
さっきとひとつ違うのは、私の手には目の前の扉を開くためのカードキー。
スッとカードを装置にスライドさせると、ピピッという音の後、カチャリとロックの外れる音がした。

「本物だったんだ…、」

100%疑ってたわけじゃないけど、やっぱりそれなりに疑惑は抱いていた。
もしかしたら、罠かもしれない…
だからこうもあっさり扉が開くと、少し拍子抜けする。

でも、こうして扉は開かれた。
もう、あとには引けない。

「なんとかなる…よ」

自分に言い聞かせるように呟いて一歩。
私は扉の内側に足を踏み入れる。

カチャ、と再びロックのかかる音が響いた。
あ、そういえばヒビキくんどうやって追い付くんだろう。
…まぁ、いいか。

扉の内部にひとり。
さて、これからどうするか。

「ウツギ博士の話だと、どこかで局長が人質になってる…んだよね」

だとしたら、人質の安否が第一かな。
近くに何かないかと見渡すと、上へ続く階段。
それ以外には、特に何も見当たらない。
つまり、

「この先に…、」

多分、局長はいる。
そして、戦力も集中している。
気を引き締めて行こう。

今更ながら、それを意識した途端に少し足が震えてきた。
大丈夫、なんとかなる。
いつものようにそう呟いて、階段に一歩、足を踏み出した。


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