5 確かに、何もせずこの研究所に留まっていても、新しい情報が入ってくる可能性は限りなく少ないだろう。 でも。 「あの、私、冒険なんて…」 いくらゲームでこの世界をある程度知っているとはいえ、あれはあくまでもゲーム。 実際に冒険するのとは、訳が違う。 「大丈夫、ポケモントレーナーなんて最初はみんなそんなもんだよ。其処に居るヒビキ君やコトネちゃんだって、新米トレーナーなんだから」 「博士、俺もう新米じゃないっすよ!」 「それに、君にはもうこのラルトス…蒼衣君が居るじゃないか。……あれ、そういえばカナエちゃん、君、モンスターボールは?」 「モンスターボール?」 そういえば、持っていない。 蒼衣も勝手に着いてきているだけだし。 「そう、モンスターボール。ポケモンをボールに入れて捕まえることで、これは自分のポケモンだという印になるんだよ。逆に、どんなに懐いていてもボールに入れたことが無ければ他の人間にボールを投げられた時に捕まえられてしまう」 「つまり、もし今俺がボールを投げたらそのラルトスは俺のものになる、ってことだよ」 博士の言葉を、ヒビキくんが簡潔に補足してくれた。 すると、蒼衣は何かを感じ取ったのか、イヤイヤというように私の足にすり寄ってきた。 「はは、だいぶ君に懐いているみたいだね。じゃあ、このモンスターボールをあげるから一度彼をそれに入れてあげるといいよ。それで、彼は完全に君の手持ちポケモンになる」 博士はそう言うと、おなじみの赤と白のボールを渡してくれた。 ボールの中央にあるスイッチを押して、蒼衣に軽くボールを宛てがった。 すると、蒼衣の身体はボールに吸い込まれ、ボールは軽く2、3度揺れ、そして、止まった。 「おめでとう、これでそのラルトスは君の手持ちポケモンだよ。もう、外に連れ歩いていても他のトレーナーから狙われる心配も無くなった」 「あの、ありがとうございます」 「いいよ、どういたしまして。あとは蒼衣くんをボールに入れて持ち歩くなり、外に出して一緒に歩くなり、好きにしたらいいよ」 どうしようかな、と一瞬迷ったが、突然ボールに入れたので蒼衣もびっくりしているだろう。 そう思って、私は蒼衣をボールから出してやった。 「昔はポケモンはモンスターボールに入れて連れ歩くのが通説だったけど、今はポケモンを出して連れ歩くのも流行ってるからね。一緒に冒険するのも良いと思うよ。ただし、外に出して連れ歩くポケモンの数は1体のみ、同時に持ち歩くポケモンの数は外に出しているのも含めて6体のみだから、気を付けて」 「6匹を超えて捕まえたポケモンは、ボックスに預けられるのよ」 コトネちゃんが言った。 「そう、ボックス。架空の世界としてとはいえ、僕たちの世界に触れたことがあるなら知っているかもしれないけれどね。各地にポケモンセンターという…所謂、ポケモンとポケモントレーナーのための無料休憩所だね。そこにあるパソコンを使うと、自由に手持ちのポケモンを入れ替えることができるんだ」 「へぇ…」 驚いた。あのシステムが実際に稼働してるんだ、この世界では。 |