1 「風音、あとどれくらいで着きそう?」 『そうねぇ、昼までには!』 「なるべく早くお願い!」 『了解!』 ぐん、と風音は少しスピードを上げる。 早く…早く、コガネへ…! 氷の抜け道を抜けて、フスベシティにたどり着いたのが昨日の話。 なんだかいろいろありすぎて、蒼衣となぎを治療のためにあずけて部屋でぼんやりとしていた。 幸い、蒼衣は一時的に激しく消耗していただけで、ゆっくり休めばすぐによくなるとのこと。 なぎも少し時間はかかるけど、悪化はしていないみたいだ。 そして一夜明けた今朝一番。 その報せは突然やってきた。 ピリリリリリ! けたたましく鳴るポケギアのアラーム音…いや、違う。この音は、電話の着信だ。 誰だろう、こんな朝から。 もぞ、と布団から手を伸ばして音の発生源を探していると、既に起きて身仕度を終えた翡翠がポケギアを握らせてくれた。 着信は、ウツギ博士。 「ん、ありがとう翡翠…もしもし?」 「た…大変なんだ、カナエちゃん!」 …なんだかデジャヴを感じる。 確か、ヨシノでもこんなことなかったっけ…? 寝起きの頭でそんなことをぼんやり考えていると、次の瞬間。 とんでもない言葉が、博士の口から飛び出した。 「大変なんだ、ロケット団が動き始めたみたいなんだ!」 「…!」 寝ぼけた頭が一気に覚醒し、昨日のロケット団員の台詞が蘇る。 確かに言っていた。 これから一仕事する、と。 「既にコガネのラジオ塔が占拠されたらしい。僕はとりあえずジョウト近くのトレーナーに連絡を取って応援を要請しているんだ。ヒビキ君も既にコガネに向かっている」 「…わかりました」 「すまないね、カナエ君だっていろいろ大変なのに、」 電話口で、ウツギ博士は申し訳なさそうにそう言った。 「あ…いえ、大丈夫です。じゃあ、私もこれからコガネに向かいます」 「よろしく頼むよ。カナエちゃんが向かうことは、ヒビキ君にも伝えておくよ」 じゃあ、と慌ただしく博士は電話を切った。 まさか、こんなに早く動くなんて。 …ラジオ塔を占拠した、と言っていた。 試しにポケギアのラジオをつけてみると、 ――…れは…ット……サカキさ… 周波数が会ってないので雑音がひどいけど、ロケット団らしき放送が流れる。 ぼんやりなんて、してられない。 「カナエちゃん…、」 心配そうに翡翠が声をかける。 「大変なことになってるみたいだよ、翡翠」 苦笑でそれに応えて、そして皆の布団に手をかける。 「…ごめん、みんな起きて!」 昨日の今日で申し訳ないと思いつつも、私は皆を起こす作業にかかった。 |