7


「カナエー!」

「垂!」

私が落ち着いてきた頃、垂は戻ってきた。

「ごめんなさい、遅くなって…あら?」

私たちを、不思議そうに眺める。

「出られたの?でも、どうして…?」

「ん…、それはあとで話すよ」

垂は腑に落ちない様子だったけど、そうだと思い出したように続ける。

「さっき会ったトレーナーがね、今こっちに向かってくれてるのよ。私は先に戻ってきたんだけど、」

と、そのとき。
コツ、と足音が響いた。
垂が呼んでくれた人だろうか?
そちらに目をやると、

「あ…!」

そこに居たのは、

「まぁ!どちらさんかと思たらカナエはんやないですか!」

「えっと、」

タマオさんかコウメさんか、それともサツキさんか……いや、でも化粧でわかりづらいけど、少し幼い印象を受ける。

「あ、うちははじめましてになります。末の舞妓のコモモ言いますん」

私の言いたいことを悟ったのか、コモモさんはそう言った。
そして、私と、私の足元にできた水溜まりを見比べて続ける。

「コウメ姉様から"目覚めた"とは聞いてましたけども…ほぼ完全に覚醒しはったみたいで」

よろしおす、と、コモモさんはにこりと微笑む。

「コモモさん…教えてください。あなたたちは、一体何を知っているんですか?」

彼女たちは知っている。
私の知らない、私の何かを知っている。

コモモさんは少し考える素振を見せ、そして、言った。

「そうどすなぁ…こればっかりは、うちの独断では決められませんのやけども。今日のことはお姉様方にも報告さしてもらいますんで、もしかしたら次には…、」

だから今日は勘忍してもらえませんやろか、と。

「そう…ですか」

過去の経験上、彼女たちはこう言った以上は絶対にそれ以上の情報は話してくれない。

私が諦めて小さくため息をついた、そのとき。

「やけどね、カナエはん。恐らく…これはうちの予想ですけども、近々きっとお話できると思いますのん。やから、」

そないに気を落とさんといて?と。
コモモさんは、私の肩を優しく叩く。
そして、

「ほな、うちの出番はないみたいやさかい、おいとまさせてもらいます」

そう言って、出口の方向かって歩いて行った。

「…あの!」

無意識に。
私は、コモモさんを呼び止めていた。
コモモさんはぴたりと足を止め、振り向く。

「どうして…どうして、コモモさんはここへ?」

例えば、それに何か意味があるならば。
しかし、コモモさんはとても楽しそうにこう言った。

「うち、ここでアイススケートするんが趣味なんですの。今日もそのつもりで来まして」

ほな、と一礼してコモモさんは去っていく。
シャラシャラと髪飾りの音が、洞窟に反響した…気がした。


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