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…どれくらい、そうしていただろう。

手の平を氷に押し当てると、そこからみるみるうちに滴が落ちる。
私の胸の高さ辺りの氷は、もうだいぶと薄くなってきた。

「すご…、」

「…ん。でも、カナエがどうして?」

わからない。
私が聞きたい。

私はただ、ここから出たかった。
みんなで、ここから出たかった。
ただ、それだけなのに。

手の平の熱はまだ治まらない。
私は、胸の高さから少し手を下に移動させる。
すると今度は、またそこに新たなくぼみが生じる。
そうした作業を何度か繰り返すうちに、氷の壁はだいぶと厚みを減らしていき、その面積は私が通れるか通れないかくらいまで広がった。
手の平の熱は、だいぶと治まってきたように感じる。

「ねぇ、炬。今なら炬の体当たりでこの氷、破れないかな?」

『え…あ、あぁ』

炬はぽかんと私を見ていたが、慌てて立ち上がり氷の前に立つ。

『ちっと下がっときや』

そして炬は、薄くなった氷めがけて軽く反動をつけて体当たりをする、と。

ピシ、

さっきまでびくともしなかった壁に亀裂が入り、とどめに前足で蹴ると、ばりんと音を立てて氷の壁は破られた。

「やった…!」

出られる、これで…!

「みんな、」

行こう、と。
みんなの方を振り向くと、それぞれに複雑な表情を浮かべている。
疑問、戸惑い。
そんな色が、ありありと。

「…っ、」

そうだ…確かに、ただの人間が手を押し当てただけで氷の塊を溶かすなんて、有り得るはずがない。
私にだって、何がどうなってるのかはわからない。
ただ、さっきは夢中で。
でもやっぱり…おかしい、んだろう。


妙な気まずさを感じて、どうしていいかわからなくて。
ただ立ち尽くす私に声をかけたのは、やはりというか何と言うか、蒼衣。

『…カナエ。僕らはカナエに着いていくって決めた。カナエが何者でも、カナエはカナエ。それは、変わらない』

その言葉を皮切りに、次々に口を開く。

「うん、まぁさっきはびっくりしたけどさ。それで俺らがカナエちゃんのこと嫌いになるとか、そんなんじゃないしさ」

「そうよぅ。それに、そんなこと言ったら原型のアタシらと話せる時点でおかしいじゃないのよさ」

風音の言葉はもっともで、皆は「それもそうだ」と頷く。

「みんな…っ!」

熱いものが目から溢れてきて、それはとめどなく流れ続ける。

「大丈夫よ、カナエちゃん。蒼衣くんの言う通り、私たちは"カナエちゃん"だからこそ着いてきたんだから」

「ほら、そんな顔ぐしゃぐしゃにしなや。泣くんやったらあたしの胸で泣きぃ」

ぐい、と炬は私の頭を引き寄せて胸元に押し付ける。

「かがり…っ、」

そして、私は。
関が切れたように、炬の胸で泣き続けた。

一緒にいるのがみんなで、よかった。


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