5


「遅いね、垂」

垂がここを離れてしばらく経ったように感じたけど、時計を見ると実際まだそんなに時間は経っていなかった。
寒さで時間の感覚も麻痺してきたようだ。

始めはぽつりぽつりと会話も交わしていたけれど、だんだんとその数も減ってきた。

「ここって、そんなに奥だったかしら?」

カタカタと震えながら、ぽつりとなぎが呟いた。
皆で話しながら歩いてたからあまり意識してなかったけど、もしかしたら実際結構奥まで来ていたのかもしれない。

「さみぃ、」

この中では一番厚手のジャケットを着ているはずの翡翠でさえ、歯の根が合わなくなってきている。
早く…早く、何とかここから脱出しなきゃ。

こんなとき、何もできない自分がもどかしい。
私は、いつもみんなの力に助けられていたんだ…って。
そう、思う。

『…カナエ、それは違う』

翡翠の膝の上にいた蒼衣が、ふと、小さな声で言った。
ヤミラミ…というポケモンが遠ざかったせいか、幾分楽そうだ。
まだ声は弱々しいけど、呼吸は戻ってきている。

『僕たちは、僕たちの意志でカナエを助けたいって思ってる。だから、それは気にすることない』

私の考えてることは、口にしなきゃ直接蒼衣以外には伝わらない。
でも、今の蒼衣の言葉で、それはみんなに伝わったみたいで。
みんなは、「そうだよ」と頷いた。

「ありがとう、みんな…、」

みんなと一緒で、本当によかった。
でも…だからこそ、みんなを守りたい。
こんなところで、凍死なんてするわけにはいかないんだ!






―――それは、何か意図しての行動ではなかった。
立ちはだかる氷の壁に、私はぺたりと手を触れた。

「……え?」

氷が。
私の触れた部分の氷が、ゆるゆると。

ぽたり。

一滴。
また、一滴。
足元に、しずくが滴る。

「カナエ…?一体どうしたのよぅ?」

異変を察知した風音が一歩、近付く。
だけど、何が起こってるのかなんて私にもわからない。

「カナエちゃん…それ、」

翡翠も。
そしてみんなも、異変に気付いたみたいで、目を見開いている。
私の触れていた部分の氷は溶けて、拳くらいのくぼみができている。

ここで、あることに気付いた。
手の平の中央が、じんわりと熱い。
熱があるわけでもないのに、どうして。
試しに恐る恐る反対の手で触れてみると、不思議なことに全然熱くなくて、いつもの私の手の平と同じだった。

これは……?


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