2 「うわぁ、」 中に足を踏み入れると、そこは幻想的というんだろうか…きらきらと氷に光が反射して、何とも言えない光景を描いている。 「本当、すごく綺麗」 まだ人の手付かずの美しい景色の残るこの場所に、垂は嬉しそうに目を細める。 こうしてまだまだ美しい場所が残るジョウト地方。 この光景が、ずっと残ればいい…ううん、むしろ私たちが守っていかなきゃいけないんだ。 あらためて、そう思う。 「あ、ウリムー」 もぞ、と岩の陰から現れたのは、茶色くて丸いウリムー。 家族なのか友達なのか、全部で5匹。 こちらの様子を伺っている。 「ふふ、かわいい」 『ニンゲン?』 『ニンゲンだよ?』 「ごめんね、ウリムーくんたち。ちょっと通りたいだけだから」 ぞろぞろと歩く見慣れない姿に興味を持ったんだろう、あひるのこどもよろしく私たちの後を着いてくる。 「カナエ、あの子ら着いてくるわよぅ」 後ろのちびっこ大行進が気になるのか、ちらちら振り返る風音。 「うーん…まぁ、いいんじゃないかな。飽きたらそのうちどっか行くよ、多分」 しばらくぞろぞろとウリムーたちを引き連れて歩いていたけど、やがて飽きたのかウリムーはいつの間にか姿を消した。 まぁいいか、と、私たちは引き続き出口を目指していた…のだけれど。 「っ?!」 それは、突然のことだった。 「…蒼衣?」 蒼衣が、突然その場に膝をついた。 顔色が悪い…し、呼吸も荒い。 どうして…? 「は…、カナエ…今、これ以上、進んじゃ…駄目、」 「……え?」 蒼衣の口から発されたのは、警句。 ううん、それよりも早く蒼衣を助けなきゃ、 「翡翠、蒼衣を運んでもらっていい?」 「ん、わかった」 ここは氷が多い…とりあえず、蒼衣を休ませるにも、氷の少ないところに移動させないと。 小柄な蒼衣の身体を、翡翠は軽々と抱き上げる。 「垂、蒼衣を休ませられるところを探してきてくれる?」 「わかったわ」 垂はその姿をパウワウへと変化させる。 「お願いね、垂」 ひとつ頷き、垂は奥の方へと姿を消した。 私たちはひとまず、近くの岩場のくぼみへ移動する。 衰弱しきった蒼衣は、その姿をキルリアへと変える。 『カナエ……、』 苦しそうな吐息と共に、蒼衣の声が聞こえる。 「蒼衣…あんまりしゃべらないで、じっとしてて」 しかし蒼衣は首を横に振り、なおも続ける。 『近くに…、何か居る…気をつけて、』 蒼衣の発した警句と同時に。 「っ!」 ドオォン… 私たちの居るくぼみの入口を。 大きな氷のかたまりが、塞いだ。 「ハッハァ!」 聞こえてきたのは、少し前に聞いたことのあるような気がする声だった。 |