9 「カナエちゃん」 ジムを出てすぐに、辺りに人がいないことを確認して、翡翠はその姿を人へと変化させた。 また、炬よりも少し大きくなった。 「まさか、アンタがそこで進化するとはねぇ」 しみじみと、風音は翡翠のその姿を見て言う。 「なんだよ、進化しちゃ駄目なのかよ」 「べっつにぃー?」 いつものように軽口をたたき合うふたり。 進化した翡翠は身長が伸びたのに加えて、やっぱり少し逞しくなった。 左側の髪が少し、伸びている。 そして、 「ぷ!しかもアンタ、その図体でピンクって!」 風音は指差して大笑いする。 そう。翡翠の着ているジャケットの裏地が、首周りの花びらを思わせるピンク色なのだ。 (別に似合ってるし、私はいいと思うんだけど) 「はいはい、ふたりとも喧嘩しない!ここジム前だからね!」 睨み合いを始めるふたりの間に割って入って、なんとか宥めすかす。 「そうだ、カナエちゃん」 ちょいちょい、と翡翠は私を手招きして呼ぶ。 「何、ひす…!」 ちゅ、と。 おでこに、何かが触れた。 「約束守ってくれて、ありがとう」 そう言って、ニッと笑う。 「ちょっと翡翠!アンタ何してんのよ!」 「風音には関係ないだろー」 「うっさいわね、ちょっとそこに直りなさいよ!」 「なんだよ、やんのかよ!」 「あぁら、アンタがアタシに勝てるわけぇ?」 「やってみなきゃわかんねーだろ!」 そして、言うが早いかふたりはメガニウムとピジョットに姿を変える。 うーん、風音はともかく、翡翠が少しばかり好戦的になった気がする。 平和だなぁ、なんて。 翡翠が触れたおでこに触れつつ、私はその様子をぼんやり眺めていた。 |