6 『カナエちゃん、』 いつだったか、私は翡翠とこんな話をしたことがある。 「どしたの、翡翠」 『カナエちゃんさ、何でジムに挑戦してんの?』 情報を集めるだけなら、ただ旅するだけでもいいっしょ、と。 『あ、俺は楽しいから全然いいんだけどね』 まあ、それは言われてみればもっともな話で。 ジムに寄らずに情報収集に集中した方が遥かに効率はいいとは思う。 「そうだねぇ…何となくやってみたかった、っていうのもあるんだけどさ」 最初は何となく、興味本位だった。 ずっと好きだったポケモンの世界に来て、いつも画面越しに見ていたジム戦に、挑戦してみたかった。 でも、ひとつめのキキョウジムを突破したとき、思った。 ただ旅するだけじゃ得られないものが、ここにはあるって。 それは経験だったり信頼だったり、時にはマイナスのものもあるかもしれない、けど。 「翡翠と色んな思い出を作りたいからだよ」 そしたら、翡翠はきょとんとした顔をしてたけど、次の瞬間、破顔した。 『じゃあ、俺、カナエちゃんにとって楽しい思い出が多くなるように強くなるよ』 「あはは!それは頼もしいわ」 『いや冗談じゃなくてマジだって!』 私が笑ったのが気に入らなかったのか、翡翠は少し拗ねたような声を出す。 「ごめんごめん!ほら翡翠、約束。一緒に思い出、作ろうね」 そしたら翡翠はすぐに機嫌を直して、頭の葉っぱをちょいと差し出した。 『うん、約束!俺、強くなるから』 「楽しみにしてるよ、翡翠」 私は指切りのように、差し出された葉っぱに触れる。 他愛のない、小さな約束。 それは今から少し前にあった、ちょっとした出来事。 |