5


「なぎ、お疲れ様」

普段ならなかなか当たらない吹雪も、あられという天候の中では脅威になる。
身動きの取れない状態なら、それはなおさら。

凍傷のひどいなぎをボールに戻してやり、次のボールに手をかける。

「翡翠、」

約束した。
一緒にがんばろうって。
だから、私は翡翠に託す。

「がんばろう、翡翠!」

『もち!待ちくたびれたんだって』

頭の葉っぱを振り回しながら、翡翠はちらりと一度振り返る。
その姿は、自信に満ち溢れてるようにも見える。

『なー、ヤナギさん。オレあいつなんかムカつくから、早く始めようぜー』

ぺしぺし、とヤナギさんのジュゴンは床を叩いて催促をする。

『え、俺まだ何もしてねーんだけど!』

『なんかさー、その自信たっぷりなとこがムカつくっていうか?』

『ひっでぇ!』

…なんていうか、ひどい言い掛かりな気もするけど。
ともあれ、双方やる気は十分ということで。
天候は変わらずあられ。
やや、不利な状況。

「ジュゴン、氷のつぶて!」

「翡翠、リフレクター!」

先手必勝とばかりに氷のかたまりを投げ付けるジュゴン。
しかし、翡翠の作り出した見えない壁がそれを防ぐ。
ジュゴンの顔が一瞬、悔しそうに歪む。

「気を取られるなジュゴン!」

ヤナギさんの声で我に返ったジュゴンは数回首を振る。

『くそくそっ!』

攻撃を防がれたのがよっぽどくやしかったのか、舌打ちひとつ。
ヤナギさんはさすがと言うべきか、迷うことなく次の指示を出す。

「ジュゴン、粉雪だ!」

ひゅ、と冷たい風が吹き抜けた、かと思ったら、あられに混じって小さな雪の結晶が舞い始める。

『…っ!』

突然増した寒さに堪えきれず、翡翠は眉間にシワを寄せる。

「翡翠、動きを止めないで!」

翡翠にとって寒さは致命的。
その身が凍り付かないよう、翡翠は手足を動かす。

『ハハッ!ざまぁ!』

寒さに震える翡翠をジュゴンは鼻で笑う。
あられに粉雪で、翡翠の体力は限界に近い…はず。
早く、決着を着けなければ…、

「冷凍ビーム!」

判断が、遅れた。
その一瞬にヤナギさんの指示が飛び、そして。

「翡翠!!」

がく、と翡翠は片足を折る。
駄目だった…のかな。
一緒にがんばろうって、言ったのに。

そのとき、ちらりと翡翠が私を見た。
その目は、まだ諦めてはいなかった。


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