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私と、ワタルさんの間に緊張が走った。

「この辺りの団員は片っ端から片付けたはずなんだけどな…まだ残っていたか」

なるほど、さっきからやけに誰にも会わないと思ったら、そういうことか…じゃ、なくて。
つまり、ワタルさんが下っ端団員をほとんど片付けたというのならば、

「あらァ…ヘンな男が一人って聞いたのに、かわいいボウヤもいるじゃない…え、女の子?ま、どっちでもいいんだけど」

カツ、とヒールを鳴らして私たちの前に現れたのは、真っ赤な髪の気の強そうな女の人。
服装から察するに…恐らく、幹部。
彼女はワタルさんと私を交互に見つめ、そして私を上から下まで眺める。
紅でくっきり縁取られた唇が、笑みの形を作る。

「あらァ…もしかしてあなた、そういえばランスが言ってた…ヒワダではお世話になったみたいねぇ」

やっぱり、ヒワダでの一件は話が伝わっていたか。
でも、私がさっきラムダさんに会ったことはまだ伝わってなさそうだ。

「ま、いいわ。一応自己紹介しといてあげる。あたしはアテナよ…よろしくね、カナエちゃんに、そっちのお兄さん?」

にんまりと、彼女…アテナさんは、笑みを深くした。
その笑みはまるで、チェシャ猫の浮かべるそれにひどく似ているように思えた。

「それにしても、相手が二人じゃあ、さすがにあたしもねぇ」

やれやれ、とアテナさんは肩をすくめ、腰のベルトからシーバーを取り出した。

「あーもしもしぃ?あたし、アテナ。今、例の侵入者と接触中なの。で、誰でもいいわ。応援に来てくれないかしら?」

じゃ、よろしくね。と、アテナさんはシーバーを切った。

「何を…?」

「あら、決まってるじゃない。バトルしようにも、二対一じゃ卑怯でしょ?だから、こっちももうひとり呼んだのよ」

簡単な話でしょう、と。アテナさんは、続ける。

「ふむ…カナエちゃん、ダブルバトルは経験あるかい?」

「えっと…何回か、なら。あまり慣れてはいませんけど」

道中、双子ちゃんたちとのバトルは、いつもそうだったから。
でも、あれは頭をふたつに分けて考えないといけないから、正直苦手だったりするんだけど。

「よし、経験があるならそれでいいさ。相手はロケット団だからね、細かいルールを守ってやる必要もない」

それもそうだ、と、話しているうちに、応援に駆け付けたロケット団員が到着した。

「じゃ、始めましょ」

アテナさんは、チェシャ猫のような笑みを浮かべた。


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