3 私と、ワタルさんの間に緊張が走った。 「この辺りの団員は片っ端から片付けたはずなんだけどな…まだ残っていたか」 なるほど、さっきからやけに誰にも会わないと思ったら、そういうことか…じゃ、なくて。 つまり、ワタルさんが下っ端団員をほとんど片付けたというのならば、 「あらァ…ヘンな男が一人って聞いたのに、かわいいボウヤもいるじゃない…え、女の子?ま、どっちでもいいんだけど」 カツ、とヒールを鳴らして私たちの前に現れたのは、真っ赤な髪の気の強そうな女の人。 服装から察するに…恐らく、幹部。 彼女はワタルさんと私を交互に見つめ、そして私を上から下まで眺める。 紅でくっきり縁取られた唇が、笑みの形を作る。 「あらァ…もしかしてあなた、そういえばランスが言ってた…ヒワダではお世話になったみたいねぇ」 やっぱり、ヒワダでの一件は話が伝わっていたか。 でも、私がさっきラムダさんに会ったことはまだ伝わってなさそうだ。 「ま、いいわ。一応自己紹介しといてあげる。あたしはアテナよ…よろしくね、カナエちゃんに、そっちのお兄さん?」 にんまりと、彼女…アテナさんは、笑みを深くした。 その笑みはまるで、チェシャ猫の浮かべるそれにひどく似ているように思えた。 「それにしても、相手が二人じゃあ、さすがにあたしもねぇ」 やれやれ、とアテナさんは肩をすくめ、腰のベルトからシーバーを取り出した。 「あーもしもしぃ?あたし、アテナ。今、例の侵入者と接触中なの。で、誰でもいいわ。応援に来てくれないかしら?」 じゃ、よろしくね。と、アテナさんはシーバーを切った。 「何を…?」 「あら、決まってるじゃない。バトルしようにも、二対一じゃ卑怯でしょ?だから、こっちももうひとり呼んだのよ」 簡単な話でしょう、と。アテナさんは、続ける。 「ふむ…カナエちゃん、ダブルバトルは経験あるかい?」 「えっと…何回か、なら。あまり慣れてはいませんけど」 道中、双子ちゃんたちとのバトルは、いつもそうだったから。 でも、あれは頭をふたつに分けて考えないといけないから、正直苦手だったりするんだけど。 「よし、経験があるならそれでいいさ。相手はロケット団だからね、細かいルールを守ってやる必要もない」 それもそうだ、と、話しているうちに、応援に駆け付けたロケット団員が到着した。 「じゃ、始めましょ」 アテナさんは、チェシャ猫のような笑みを浮かべた。 |