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「あなたは…、」

改めて思う。
近くにいると、すごいプレッシャーだ。

彼は目を小さく見開き、私を凝視する。

「君は……、」

「え?」

「…ああ、いや。気にしないでくれ」

なんだか…久しぶりだな、この反応。
多分、この人も私…ううん、私のお母さんを知ってるんだ。

「また会ったね…ええと、すまない。そういえばまだ名前を聞いていなかったね」

そして、私も彼の名前を聞いてない。そういえば。
知っている気がするんだけど…必死で記憶を手繰るけど、なかなかこういうときに限って思い出せない。

私のその沈黙を不審に思ったか、彼は少し眉間を狭めた。

「どうかしたかい?」

「あ、いえ!何でもないです。私はカナエっていいます」

「自己紹介が遅れてすまなかったね。オレはワタル。ドラゴン使いのワタルだ」

ワタルワタルワタル…えーと、確か…
くるくると記憶の糸を手繰る…と、

「まさか…ワタルさんって、チャンピオンの?」

手繰り寄せた記憶は、まさかとは思うけどそんな可能性で。
すると、ワタルさんは照れ臭そうに言った。

「まいったな…今はチャンピオンとしてじゃなくて、一トレーナーとして来ているんだ」

つまり、それは肯定。

「えっと…じゃあ、ワタルさんはどうしてここへ?」

チャンピオン自ら、とはあえて言わなかった。
でも、こうやって自ら動いているなら、何か理由があるはず…とは言っても、さっきロケット団員と接触もしたから、ここが地下アジトなのは多分間違いないんだけど。

「昨日の件にロケット団が関わっていることは話しただろう?そして、ここが……そういえば、昨日のギャラドスは?」

ずきり、と胸の奥が痛む。
私が言い澱んだのを見て悟ってくれたのか。
「そうか…」と、ワタルさんは呟くように言った。

「仕方ない、とは言わない。けれど、他に方法がなかったのもまた、事実だ」

オレが君の立場なら、そうしたかもしれないよ…と。少し自嘲的に、ワタルさんは言った。

「まあ、とにかく。やっぱりここが奴らの拠点のひとつみたいでね。こうやって潜入してみてるわけなんだけど。そういう君は、どうしてここへ?」

「あ、それは、」

ワタルさんがここに入るのをたまたま見て…と、私が口を開くより早く。
カツ、と、硬質な音が響いた。


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