2 「あなたは…、」 改めて思う。 近くにいると、すごいプレッシャーだ。 彼は目を小さく見開き、私を凝視する。 「君は……、」 「え?」 「…ああ、いや。気にしないでくれ」 なんだか…久しぶりだな、この反応。 多分、この人も私…ううん、私のお母さんを知ってるんだ。 「また会ったね…ええと、すまない。そういえばまだ名前を聞いていなかったね」 そして、私も彼の名前を聞いてない。そういえば。 知っている気がするんだけど…必死で記憶を手繰るけど、なかなかこういうときに限って思い出せない。 私のその沈黙を不審に思ったか、彼は少し眉間を狭めた。 「どうかしたかい?」 「あ、いえ!何でもないです。私はカナエっていいます」 「自己紹介が遅れてすまなかったね。オレはワタル。ドラゴン使いのワタルだ」 ワタルワタルワタル…えーと、確か… くるくると記憶の糸を手繰る…と、 「まさか…ワタルさんって、チャンピオンの?」 手繰り寄せた記憶は、まさかとは思うけどそんな可能性で。 すると、ワタルさんは照れ臭そうに言った。 「まいったな…今はチャンピオンとしてじゃなくて、一トレーナーとして来ているんだ」 つまり、それは肯定。 「えっと…じゃあ、ワタルさんはどうしてここへ?」 チャンピオン自ら、とはあえて言わなかった。 でも、こうやって自ら動いているなら、何か理由があるはず…とは言っても、さっきロケット団員と接触もしたから、ここが地下アジトなのは多分間違いないんだけど。 「昨日の件にロケット団が関わっていることは話しただろう?そして、ここが……そういえば、昨日のギャラドスは?」 ずきり、と胸の奥が痛む。 私が言い澱んだのを見て悟ってくれたのか。 「そうか…」と、ワタルさんは呟くように言った。 「仕方ない、とは言わない。けれど、他に方法がなかったのもまた、事実だ」 オレが君の立場なら、そうしたかもしれないよ…と。少し自嘲的に、ワタルさんは言った。 「まあ、とにかく。やっぱりここが奴らの拠点のひとつみたいでね。こうやって潜入してみてるわけなんだけど。そういう君は、どうしてここへ?」 「あ、それは、」 ワタルさんがここに入るのをたまたま見て…と、私が口を開くより早く。 カツ、と、硬質な音が響いた。 |