7 「く…く、くく、あっはっはは!」 突然、その 男 は笑い出した。 「へぇ、馬鹿ではなさそうだな。カナエちゃん…どうしてわかった?」 「その呼び方…ですよ。以前ランスさんは私の名前を呼んだとき、カナエさん、と呼びました」 それは、確かなものではないかもしれない。でも、私に疑問を抱かせるには十分過ぎるくらい十分だった。 「く、はは!そうかそうか、そいつぁオレのミスだ。なるほど、いよいよもって馬鹿じゃねえみたいだな」 よくできました、と。そう言って、男は顔に手をやり、拭うような仕草をする、と。 「…!」 そこに居たのは、まったくの別人だった。 飄々としていて、表情からは何も読み取れない。 「そんじゃま、改めてハジメマシテ。オレはロケット団のラムダってもんだ。よろしくな、カナエ…ちゃん?」 そう言って、男…ラムダさんはスッと右手を差し出した。 「…?」 「握手だよ、握手。友好の証」 何を考えているんだろう、この人は? 表情からも、行動からも、なにもかもよくわからない。 そうしていると、ラムダさんは右手をぷらぷらさせながら言った。 「つれないなぁ、オレは別に他意なんてねぇよ」 「信用、できません」 「ま、それならそれでいいんだけどな」 …本当に、よくわからない。 「…蒼衣、」 小さく、私の隣に控える彼の名を呼ぶ。 しかし、蒼衣も小さく首を横に振るだけだった。 『わからない…本当に敵意がないのか、心を読めない…伝わって、来ない』 蒼衣がそう言うのなら、多分…そうなんだろう。 そんな私たちのやり取りを見て、またもラムダさんはクツクツと笑う。 「信用ねーのな、オレ…いや、この場合はロケット団が、か?」 そして、くるりと背を向ける。 「…え?」 「ま、いいさ。カナエちゃんの顔も拝めたことだし、本部に戻るかな。じゃーな、カナエちゃん」 そう言うと、本当にラムダさんは向こうに向かって歩き出した。 そして、一度立ち止まり、振り返る。 「そうそう、チョウジでの件を調べるならこの先、地下をくまなく調べるこったな」 「…どうして、そんなことを?」 蒼衣の反応に気を配りながら、慎重に返す。 嘘をついている様子はなさそうだ。 「さぁな…別にオレとしてはロケット団だろうが何だろうが、どうだっていいんだよ。たまたま今ここに居る方が都合がいい…だから、こっちに居るだけさ」 そうして、私たちが呆然としてる間に。 ラムダさんは、本当に私たちの視界から、消えてしまった。 |