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「く…く、くく、あっはっはは!」

突然、その 男 は笑い出した。

「へぇ、馬鹿ではなさそうだな。カナエちゃん…どうしてわかった?」

「その呼び方…ですよ。以前ランスさんは私の名前を呼んだとき、カナエさん、と呼びました」

それは、確かなものではないかもしれない。でも、私に疑問を抱かせるには十分過ぎるくらい十分だった。

「く、はは!そうかそうか、そいつぁオレのミスだ。なるほど、いよいよもって馬鹿じゃねえみたいだな」

よくできました、と。そう言って、男は顔に手をやり、拭うような仕草をする、と。

「…!」

そこに居たのは、まったくの別人だった。
飄々としていて、表情からは何も読み取れない。

「そんじゃま、改めてハジメマシテ。オレはロケット団のラムダってもんだ。よろしくな、カナエ…ちゃん?」

そう言って、男…ラムダさんはスッと右手を差し出した。

「…?」

「握手だよ、握手。友好の証」

何を考えているんだろう、この人は?
表情からも、行動からも、なにもかもよくわからない。

そうしていると、ラムダさんは右手をぷらぷらさせながら言った。

「つれないなぁ、オレは別に他意なんてねぇよ」

「信用、できません」

「ま、それならそれでいいんだけどな」

…本当に、よくわからない。

「…蒼衣、」

小さく、私の隣に控える彼の名を呼ぶ。
しかし、蒼衣も小さく首を横に振るだけだった。

『わからない…本当に敵意がないのか、心を読めない…伝わって、来ない』

蒼衣がそう言うのなら、多分…そうなんだろう。
そんな私たちのやり取りを見て、またもラムダさんはクツクツと笑う。

「信用ねーのな、オレ…いや、この場合はロケット団が、か?」

そして、くるりと背を向ける。

「…え?」

「ま、いいさ。カナエちゃんの顔も拝めたことだし、本部に戻るかな。じゃーな、カナエちゃん」

そう言うと、本当にラムダさんは向こうに向かって歩き出した。
そして、一度立ち止まり、振り返る。

「そうそう、チョウジでの件を調べるならこの先、地下をくまなく調べるこったな」

「…どうして、そんなことを?」

蒼衣の反応に気を配りながら、慎重に返す。
嘘をついている様子はなさそうだ。

「さぁな…別にオレとしてはロケット団だろうが何だろうが、どうだっていいんだよ。たまたま今ここに居る方が都合がいい…だから、こっちに居るだけさ」

そうして、私たちが呆然としてる間に。
ラムダさんは、本当に私たちの視界から、消えてしまった。


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