5 「くそ!」 だん!と悔し気に男は床を蹴った。 何やらやる気のなかったドガースと、やる気に満ち溢れた蒼衣。 結果は目に見えて明らかで。 ……っていうかね、蒼衣くん。あとでちょっとお話しようか。 そんな複雑な心境に駆られつつも、とりあえず私は目の前の男を追い詰める。 「くそくそ!今朝の変な緑の野郎といい…今日は厄日か」 ……緑の? ふと、ある可能性が頭をよぎった、が、とりあえず今は後回しだ。 「それで…私が勝ったんだから、ちゃんと話してくださいね」 男は悔しそうに私を睨み付けて、何か言いたそうにしていた、が、やがて。 「実験、だよ」 口の端を上げて、歪んだ笑いで。 男は、そう言った。 「じっ…けん、」 昨日ロケット団が関わってると聞いて、ある程度覚悟は決めてきたはずだった。 でも、やっぱり関係者から直接その言葉を聞くと、愕然とする。 「そうさ、オレたちはただのポケモンなんて興味がねぇ。珍しいのや強いの、それだけが価値のあるポケモンさ」 個体色が違って強いのなんて最高だろ、と。 そう、言ったのだ。 ぱぁん! 乾いた音が、響き渡った。 何も考えてなんてなかった。気付いたら、身体が動いていた。 打った右手はひりひりと痛む。 でも、傷付けられたポケモンたちはもっと痛い。 「何の…あんたたちに、何の権利があって!」 もっと言ってやりたい。 でも、言葉が出てこない。 「っつー…!テメェ、いきなり何しやがる?!」 ガッと男がつかみ掛かろうと一歩踏み出した、そのとき。 「何をしているんです?」 冷たくよく通る声が、その場に響いた。 私は…この声を知っている。 |