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「誰もいない…?」

店の前にはのぼりが出てたから、営業してるはずなのに。
それどころか、さっきの黒マントの男も見当たらない。
確かに、ここに入ったのに。
一体……、

「あれ?」

それは、巧妙に隠してあったのかもしれない。
でも、そこを隠していたものは少し位置をずらされ、最初にここに来たときにはなかったものが姿を見せていた。
すなわち、地下へと続く階段。

「……明らかに怪しいって、全力で主張してるようなもんだよねぇ」

地下へと続く階段…そして、昨日あのマントの男が言っていた、ロケット団というキーワード。
…嫌な予感しかしない。

でも、

「…、確かめなきゃ」

誰に言われたわけでもない。
それに、面倒事は好きじゃない。
でも、昨日のギャラドスを"造った"という証拠がここにあるというのならば。
私は、それを確かめなきゃいけない。気がする。

大丈夫、何とかなるよ。
自分に言い聞かせるように呟いて、一歩。そして、一歩。
ゆるやかに地下へと続く階段を降りる。

と、私はある違和感を覚えた。
臭いが、しないのだ。
地下特有の、澱んだ埃っぽい空気の臭いが。
…つまり、

「頻繁に、出入りがある…ってこと?」

嫌な予感は、いよいよ確信に近付く。
決定打ではない。
それでも、

「…蒼衣、」

一人の方が潜入には身軽でいいけど、気配を読むのが得意な蒼衣が居てくれた方が何かと心強い。

『カナエ、本当に行くの?』

その声の調子は、あまりこの先に進むことを歓迎してないようで。

「うん…やっぱり、気になるから…、」

『カナエが決めたなら、僕は無理には止めない。まだ、止めるだけの要素がない。でも、』

蒼衣は一度そこで言葉を切り、そして、言った。

『危ないと思ったら、僕はカナエのこと迷わず止めるよ』

それは、確固たる意思を持った言葉。

「でもさ、蒼衣」

蒼衣は少し俯き気味で、表情は読みづらい。

「そうならないためにも、私にはあんたたちが居るんでしょ?なら、多分大丈夫だよ」

私だって、ひとりだったらこんなことしなかった。
でも、私はひとりじゃないから。

『…そうだね』

小さく。
小さくはにかんで、蒼衣は言った。

「よし!進もう、蒼衣」

一歩踏み出した、そのとき。

「誰か居るのか?!」

私のでも蒼衣のでもない第三者の声が、響き渡った。


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