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『しかし、姫君。これだけは申せます』

結局、今回も何も分かりそうにないと少し落胆したとき、ライコウは言った。

『彼の御方は、貴女のことをとても大切に、何よりも愛おしく思っておられますよ』

それは、とても優しい声色だった。

『…少々、長居しすぎました。姫君、東へ向かうのでしたら、くれぐれもお気をつけて』

そう言い残して、ライコウはあっという間に私たちの前から去っていった。

本当に、一瞬の出来事だった。

「行っちゃった…」

ごう、と風が起こったかと思ったら、ライコウの姿は跡形もなく消えていた。

「なぁ、カナエ。どうするんや?あいつ、なんや意味深なこと言うとったけど」

「どうするったって、そんなの…」

進むしか、ないじゃない。
私には、留まる場所も帰るべき家も、ここにはないんだから。

「まぁ、なんていうかさ」

翡翠が口を開いた。

「何とかなるよ。俺たちだって、いるんだしさ」

何とかなる。
不確定で曖昧な言葉。
それでも、今の私にはそれくらいの方がいいのかもしれない。

ケ・セラ・セラ。
なるようになるさ。
そういえば最近、思いっきり楽しむことを忘れてた気がする。
好きなポケモンたちの世界にきて、思いっきり楽しもうって思ってたのに、最近余裕をなくしてた気がする。

「翡翠の言う通り。カナエ、最近少し力みすぎ」

「そうねぇ…もう少し、楽に行きましょ?」

蒼衣の、垂の言葉に、少し肩の力が抜けた。

今がその時期じゃないなら、待てばいい。
手掛かりなんて、なくて元々だもん。
私は、私が今できることをしよう。

チョウジに何があるかはわからない。
ライコウの言う通り、私にとって辛い選択が待っていたとしても、前に進まないと何も始まらないから。

だから、


「よし、悩んでても仕方ないや!みんな、チョウジへ行こう!」

「ん、そだね。んじゃ、行こうか」

ちゃきちゃきと風音が先頭きって歩き出す。
その背中がなんだか頼もしい。
風音のあとに続いて、私たちはチョウジへ向かって進み始めた。

さっきまで雲行きが怪しかったのに、いつの間にか段々空に光が射していた。


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