8 その夜。 私は、タンバの海岸に居た。 隣には、炬。 あとのみんなは、ポケモンセンターの部屋で待ってもらってる。 「アサギのときから思ってたけど、夜の海もいいよねぇ」 返事は返って来ない。 まぁ、炬は海が嫌いって言ってたし、仕方ないか。 砂浜に腰を下ろして、本題に入る。 「炬、さ」 炬はゆるりとこちらを向く。 「炬は昨日、進化したいって言ってたけど…やっぱり、進化した方がよかったって思う?」 すると、炬は予想外にあっさり首を横に振った。 『いや…まだ、えぇわ』 それは、何か吹っ切れたような、そんな声音だった。 『あたしな、あいつが嫌いなわけちゃうねんで』 あいつ…は、垂だろう。 炬は続ける。 『姉ちゃんの言う通り、意地ンなっとっただけやわ。今日のバトルで負けてわかった。今の自分すらコントロールできんのに、進化したかて持て余すだけや』 「そっか。でもね、私は炬に進化してほしくないわけじゃないからね」 むしろ、私としてはどっちかといえば楽しみだし。 『おおきにね。もうちょっとして、自分で進化してもええって思えるときが来たら…そん時は、お願いするわ』 「うん、そのときは私も止めないよ」 おいで、と手を広げたら、炬が飛び込んできた。 「かがりー」 『んー?』 「あとで、垂とちゃんと仲直りするんだよー」 『うん、まあ、ぼちぼちー』 返って来たのは曖昧な返事だったけど、この様子だと大丈夫だろう。 『なぁ、カナエ』 「なに、どうしたの…あれ?」 今、炬。 私のこと、名前で呼んだ? 『ああ、なんや気付いてもうたか』 「そりゃ気付くよー」 『あたしなぁ、人のことちゃんと名前で呼ぶん苦手やねん。その人の本質に触れてまいそうで』 そういえば、私だけじゃなく、蒼衣や他のみんなも何かしらあだ名をつけてた気がする。 『それもぼちぼち、治していくわ。ちゃんと向かい合わな、わからんことだってあるしな』 「そだね。名前は、あの子たちが嫌がってないならそれでいいと思うけどね。…さ、そろそろみんなのとこに戻ろっか!」 『はいよー』 炬と垂はもう大丈夫。 理由はないけど、なんだかそんな確信があった。 |