2 走り始めて間もなく。 さあ、と冷たい風が吹いた。 まるで、冬に吹く北風のような…、 「あれ…?」 そういえば、何でこんなに寒いんだろ? 「カナエちゃん、なんか…寒くない?」 私が濡れているから肌寒いだけかと思ったが、ずっとボールにいたはずの翡翠までも寒いというのだから、やっぱり…、 「…あ、」 そこは、海岸沿いの岩場だった。 少し窪みがあり、その窪みに"彼"は佇んでいた。 『お待ち申しておりました、姫君』 「スイクン…、」 エンジュの焼けた塔で出会った、ジョウトに伝わる伝説のポケモン…スイクン。 一体、どうしてここへ…ううん、それよりも 『姫君…』 「あの…さ。私、姫君なんて呼ばれる覚え、ないんだけど。人違いじゃない?」 そう…彼等は何故か最初に会ったときから私のことを姫君と呼ぶ。 スイクンは首を横に振り、恭しく跪づいた。 『いいえ、姫君。我等が間違えるはずなどありませぬ』 「でも…、」 間違えるはずがないったって、まだ数えるほどしか会ってないし、それに…私は彼等を知らないけど、彼等は私をよく知っている… 『姫君…我等には、貴女の力が必要なのです。あの御方の血を引く、貴女の…』 あの御方…? 「誰のこと?あの御方って…私のお母さん?」 そういえば、何故かこの世界で何人か…お母さんのことを知っている人がいた。 それと、関係しているのかな…? するとスイクンはまたも小さく首を横に降る。 『まだ、私の口からは詳しいことは申せません。しかし、いずれ……、』 そこで一度言葉を切り、スイクンは私を…ううん、私の後ろを睨みつけた。 何だろう? 振り返ると、そこには、 「ミナキさん、」 スイクンと同じくしてエンジュの焼けた塔で出会った、ミナキさんが立っていた。 |