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走り始めて間もなく。
さあ、と冷たい風が吹いた。
まるで、冬に吹く北風のような…、

「あれ…?」

そういえば、何でこんなに寒いんだろ?

「カナエちゃん、なんか…寒くない?」

私が濡れているから肌寒いだけかと思ったが、ずっとボールにいたはずの翡翠までも寒いというのだから、やっぱり…、

「…あ、」

そこは、海岸沿いの岩場だった。
少し窪みがあり、その窪みに"彼"は佇んでいた。

『お待ち申しておりました、姫君』

「スイクン…、」

エンジュの焼けた塔で出会った、ジョウトに伝わる伝説のポケモン…スイクン。
一体、どうしてここへ…ううん、それよりも

『姫君…』

「あの…さ。私、姫君なんて呼ばれる覚え、ないんだけど。人違いじゃない?」

そう…彼等は何故か最初に会ったときから私のことを姫君と呼ぶ。
スイクンは首を横に振り、恭しく跪づいた。

『いいえ、姫君。我等が間違えるはずなどありませぬ』

「でも…、」

間違えるはずがないったって、まだ数えるほどしか会ってないし、それに…私は彼等を知らないけど、彼等は私をよく知っている…

『姫君…我等には、貴女の力が必要なのです。あの御方の血を引く、貴女の…』

あの御方…?

「誰のこと?あの御方って…私のお母さん?」

そういえば、何故かこの世界で何人か…お母さんのことを知っている人がいた。
それと、関係しているのかな…?

するとスイクンはまたも小さく首を横に降る。

『まだ、私の口からは詳しいことは申せません。しかし、いずれ……、』

そこで一度言葉を切り、スイクンは私を…ううん、私の後ろを睨みつけた。
何だろう?
振り返ると、そこには、

「ミナキさん、」

スイクンと同じくしてエンジュの焼けた塔で出会った、ミナキさんが立っていた。


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