5 「ねぇ、」 彼女の歌が一息ついたところを見計らって、私は彼女に声をかけた。 彼女はゆっくりと振り向く。 『貴女、昨日の…』 そのままパウワウは海へ消えようとする、が、 「待って!私たち、危害を加えたりなんかしない!話がしてみたいだけ!」 私の言葉に、彼女は訝し気に振り返った。 『話…?何を、』 「きみのこと。どうして、君がそんなにも人間を嫌っているのか…少し、知りたい」 彼女はその表情を不思議そうなものに変える。 彼女との間に張り詰めていた緊張が、少し和らいだのがわかる。 『そんなこと言ってくる人間なんて…初めてだわ』 もっとも、私たちと話せる人間も初めてだけど。と、付け加える。 『そうね…話が通じるのなら、話してみるのもおもしろいかもしれないわね』 やがて、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。 『ねぇ、貴女たち。この…ううん、ここじゃなくてもいいわ。海をどう思う?』 「海を…?」 「あたしは好かんな」 すかさず口を開いたのは炬。まあ、それは大方炎タイプだからだろうけど。 「俺は割と好きかな。だって楽しいじゃん。波とか船とか」 パウワウは小さく溜息をついた。 『違うわ、私が聞きたいのはそんな表面上のことじゃない。…貴女は?』 私、は 「そうだなぁ…怖い、かな」 『あら、それはどうして?』 「海は全てを産むと同時に、全てを飲み込むから…かな」 夏場にテレビで高波に掠われたというニュースなどを見て、何となく怖いなーなどと思ったものだ。 …少し、例えは違うかもしれないが。 それでも、パウワウは何かを感じ取ってくれたのか、ふぅん、と何度か頷く。 『そうね…でも、飲み込まれるのが"怖い"なら、産み出すのはその逆じゃないかしら?』 は、と気付いた。 今まで、その考えには至らなかった。 くすくす、とパウワウは笑う。 初めて見せた、笑顔。 『不思議な人間…。いいわ、話しても』 そうして、彼女は話し始めた。 |