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その波打ち際には、見覚えのあるシルエットが佇んでいた。

「カナエ、あれ…」

「うん、多分…昨日のパウワウだ」

彼女はこちらに気付いていない。
やがて、昨日のように岩場の陰に落ち着いたようだ。

「カナエ、昨日って?」

…あ。
そうだった、蒼衣以外は私が夜に出てたこと、知らないんだった。

「夜にね、ちょっと眠れなくて…この辺りで、夜風に当たってたのよ」

風音は「ふぅん」と納得したようなしてないような曖昧な返事をしたが、その隣に居た翡翠は納得していないようだった。

「カナエちゃん、夜に1人は危ないよ」

最近、翡翠はなんだか保護者のような言動がたまに目立つ。
今までが末っ子のようだから、尚更。

「大丈夫だよ。それに、昨日は蒼衣が気付いて着いて来てくれたしね」

蒼衣が?と視線を私から蒼衣に移すと、蒼衣は

「カナエが起きた気配がしたから」

と、翡翠の視線に答えたことで、ようやく「まぁ、それなら」と頷いた。

…そうこうしているうちに、風に乗って彼女の歌声が聞こえてきた。

ら、ららら…ら、ら…

「なんだか、すごく悲しい声…」

なぎの呟いた感想は、私も同じくしていたものだ。
昨日聴いた歌声よりも、何かを強く訴えているような…そんな、歌声。

「蒼衣…私、あの子と話をしてみたいんだけど、大丈夫かな…?」

彼女は人間を憎んでる…と、言っていた。
今までのように、うまく話せる自信は、なかった。

「わからない…けど、カナエが本当に話したいなら、それは伝わる」

蒼衣の言葉に後押しされて、私は一歩、踏み出した。


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