4 その波打ち際には、見覚えのあるシルエットが佇んでいた。 「カナエ、あれ…」 「うん、多分…昨日のパウワウだ」 彼女はこちらに気付いていない。 やがて、昨日のように岩場の陰に落ち着いたようだ。 「カナエ、昨日って?」 …あ。 そうだった、蒼衣以外は私が夜に出てたこと、知らないんだった。 「夜にね、ちょっと眠れなくて…この辺りで、夜風に当たってたのよ」 風音は「ふぅん」と納得したようなしてないような曖昧な返事をしたが、その隣に居た翡翠は納得していないようだった。 「カナエちゃん、夜に1人は危ないよ」 最近、翡翠はなんだか保護者のような言動がたまに目立つ。 今までが末っ子のようだから、尚更。 「大丈夫だよ。それに、昨日は蒼衣が気付いて着いて来てくれたしね」 蒼衣が?と視線を私から蒼衣に移すと、蒼衣は 「カナエが起きた気配がしたから」 と、翡翠の視線に答えたことで、ようやく「まぁ、それなら」と頷いた。 …そうこうしているうちに、風に乗って彼女の歌声が聞こえてきた。 ら、ららら…ら、ら… 「なんだか、すごく悲しい声…」 なぎの呟いた感想は、私も同じくしていたものだ。 昨日聴いた歌声よりも、何かを強く訴えているような…そんな、歌声。 「蒼衣…私、あの子と話をしてみたいんだけど、大丈夫かな…?」 彼女は人間を憎んでる…と、言っていた。 今までのように、うまく話せる自信は、なかった。 「わからない…けど、カナエが本当に話したいなら、それは伝わる」 蒼衣の言葉に後押しされて、私は一歩、踏み出した。 |