2 澄んだ夜の空気に響く声は、少女というには少し大人びたものだった。 私は蒼衣と顔を見合わせ、岩場へと近付いた。 そこには、 「パウワウ…?」 岩場の陰で歌っていたのは、真っ白な体につぶらな瞳のパウワウ。 その姿は、例えるなら人魚。 『あら、貴女人間じゃない。いやだわ、バトルなの?』 ごめんなさい、気分じゃないのよ。そう言ってパウワウは海に帰ろうと踵を返す。 「ま、待って!私たち、バトルしにきたわけじゃないの!」 思わず、パウワウを引き止めてしまった。 しかし、彼女(だろう、間違いなく)を驚かせるには十分だったようで、首を傾げて振り返る。 『貴女…何なの?私の言葉が、解るの?』 「まぁね。それよりも…さっきの歌って、貴女が歌っていたの?」 すごく綺麗な歌だった、と続けるより早く。 彼女は、私の方を睨んだ。 『人間に…、』 「え…?」 『人間なんかにほめてもらったところで、嬉しくも何ともないわ』 ふい、と。 彼女はそのまま海の中へと消えてしまった。 「蒼衣…あの子、」 蒼衣は首を小さく横に振る。 「わからない…ただ、彼女はすごく人間を憎んでる」 なんで、どうして。 答えを聞くべき彼女は既に海の中で、私にはどうしようもなかった。 「…帰ろっか」 もう、日付を跨いだだろうか。 明日も早いし、そろそろ部屋に戻ろう。 蒼衣の手を繋ぎ、私たちはポケモンセンターへ向かった。 真っ暗な中佇むアサギの灯台を見て、そういえば灯台も「塔」みたいだなぁ、なんて。 ぼんやりと、そんなことを考えていた。 月は、雲に隠れて見えなかった。 |