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灯台の中は不思議なくらい静かだった。
アサギの灯台といえば、アサギシティでも有数の観光地だと思うんだけど、やっぱり明かりが点いていないからだろうか…灯台の中では、あまり私たち以外の人を見かけない。

「えっと…展望台はこっち、かな?」

直通エレベーターはメンテナンス中らしく、私たちは灯台の中の階段をぐるぐると上る。

「カナエ、階段こっちー!」

先に辺りの様子を見ていた風音が、奥の方で手を振る。

「ね、上に誰かいるみたいなのよぅ」

階段を半分くらい上ったところで、風音が振り返る。
急いで風音に追い付いて階段の上を覗くと、そこには女の子と…

「あれは…デンリュウ?アカリちゃん?」

え、と私の声に気付いた彼女がこちらを向いた。
その表情はひどく疲れた様子で、目の下には少し隈も見える。

「あの、貴女は…?」

「あ、えーと…突然すみません。灯台の明かりがついていなかったから、気になって…」

私の言葉に、彼女の瞳が悲しそうに色づく。

「あの…?」

「お願いです!アカリちゃんを……アカリちゃんを、助けてください!」

「アカリちゃんを…?」

彼女の側に横たわるデンリュウ…アカリちゃんを見ると、苦しそうな、不規則な呼吸。
彼女は続ける。

「アカリちゃんは…昔からずっとこの灯台でアサギの道標として海を照らし続けてきてくれました…でも、しばらく前から体調が悪くなってきて…」

ぽろり、と彼女は目に涙を浮かべる。

「海の向こうのタンバシティには薬屋さんがあるんですけど、アカリちゃんの側を離れるわけにはいかなくて…」

「カナエちゃん…、」

ぎゅ、となぎが私の袖を掴んだ。

「わかってる…大丈夫だよ、なぎ」

ふわふわのなぎの髪を撫で、私は彼女に言った。

「あの…タンバに行くには、船とかって出ていますか?」

「えぇ、本数は少ないですが…それじゃあ?!」

「私もちょうどタンバに行くつもりだったから…薬、もらってきますね!」

だって、目の前で苦しんでいるのに放ってなんておけない。
皆もそれは一様に同じだったようで、それぞれに頷いた。

「ありがとうございます…!申し遅れましたが私、ミカンといいます。ここの表のロックは開けておくので、帰りはエレベーターを使ってください」

「わかりました。私はカナエっていいます」

「カナエさん…よろしく、よろしくお願いします…!」

にこり、と笑って頷くと、ミカンさんは少し安堵の表情を見せた。
とりあえず、今晩はもう遅いから…明日の朝一番でタンバに向かおう。


灯台から出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
明かりのない夜の海は、不思議な静けさだった。


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