2 「ごめんくださーい……あら?」 かちゃり、と入口を開くと、そこは誰もいなかった。 「おかしいなぁ…鍵は開いてたのに」 『無用心やなぁ』 ふん、と炬が鼻を鳴らす。 たしかに、いくら平和とはいえ…鍵も開けっ放しで誰もいないなんて… 「誰もいないんだったら、しょうがないね」 残念だけどねー、と、引き返そうとした、とき。 「すみませんね、お待たせしちゃって」 奥から出て来たのは、少し疲れた表情の小柄なおばさん。 この牧場の人かな? 「あ、いえ。こちらこそ突然すみません。あの、牧場を見せて欲しいのと、よければミルクを分けてもらいたいな、って思って」 すると、おばさん小さく溜息をついた。 「ミルクを分けてあげたいのは山々なんだけどねぇ…」 「どうかしたんですか?」 ちょっとついて来てごらん、とおばさんに案内されたのは、さっきおばさんが出て来た扉のさらに奥。 その扉は、牛舎に繋がっていたようだ。 干し草の香りがいっぱいに広がる。 「お母さーん、まただよー!」 ぱたぱた、と走りながら走ってきたのは小さな女の子。 「オレンの実、もうなくなっちゃう…」 その表情は今にも泣き出しそうで、 「あのー…オレンの実って?」 ああ、とおばさんは再び私たちに向き直る。 「いやね、うちのミルタンクが最近体調を崩しちまってね…オレンの実があればすぐによくなるんだけれど…どういうわけか、倉庫にあったオレンの実がいつの間にか減ってしまってねぇ…」 なるほど… 分けたくてもできない、っていうのはそういうことか。 「ま、そういうことでさ。悪いね、せっかく来てくれたのに」 申し訳なさそうに、おばさんは笑った。 |