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「ごめんくださーい……あら?」

かちゃり、と入口を開くと、そこは誰もいなかった。

「おかしいなぁ…鍵は開いてたのに」

『無用心やなぁ』

ふん、と炬が鼻を鳴らす。
たしかに、いくら平和とはいえ…鍵も開けっ放しで誰もいないなんて…

「誰もいないんだったら、しょうがないね」

残念だけどねー、と、引き返そうとした、とき。

「すみませんね、お待たせしちゃって」

奥から出て来たのは、少し疲れた表情の小柄なおばさん。
この牧場の人かな?

「あ、いえ。こちらこそ突然すみません。あの、牧場を見せて欲しいのと、よければミルクを分けてもらいたいな、って思って」

すると、おばさん小さく溜息をついた。

「ミルクを分けてあげたいのは山々なんだけどねぇ…」

「どうかしたんですか?」

ちょっとついて来てごらん、とおばさんに案内されたのは、さっきおばさんが出て来た扉のさらに奥。
その扉は、牛舎に繋がっていたようだ。
干し草の香りがいっぱいに広がる。

「お母さーん、まただよー!」

ぱたぱた、と走りながら走ってきたのは小さな女の子。

「オレンの実、もうなくなっちゃう…」

その表情は今にも泣き出しそうで、

「あのー…オレンの実って?」

ああ、とおばさんは再び私たちに向き直る。

「いやね、うちのミルタンクが最近体調を崩しちまってね…オレンの実があればすぐによくなるんだけれど…どういうわけか、倉庫にあったオレンの実がいつの間にか減ってしまってねぇ…」

なるほど…
分けたくてもできない、っていうのはそういうことか。

「ま、そういうことでさ。悪いね、せっかく来てくれたのに」

申し訳なさそうに、おばさんは笑った。


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