5 「お疲れ様、炬」 炬は呪いを受けている。 一度戻さないと、体力が奪われ続けてしまう。 「しかし、わからないな」 ゴーストをボールに戻しながら、マツバさんは呟いた。 「何故君はそうやって戦うんだい?」 「質問の意味が…よくわかりません」 「そうだな…言い方を変えよう。君はさっき恐れるものはない、と言ったね。恐れるものがないのに、君はどうして戦うんだい?」 言葉が、見つからない。 マツバさんは続ける。 「僕はね、カナエちゃん。怯え、妬み、恨み、孤独…様々な負の感情が、怖いんだ。だからそれらに抗うために人は戦うんじゃないか…そう、思ってるんだ」 人間の、負の感情。 マツバさんの言葉を反復する。 私が今戦い続けているのは、マツバさんや他の人が怖いからではなく、 「もし…もし、私が恐れているとしたら、それは…この子たちや、今まで築いてきた皆との絆が途切れること。だから、私は絆を断ち切られることを、恐れる」 何よりも、孤独を。 「そうか…うん、それなら…合格、かな」 にこり、と。 マツバさんは、今まで見た中で一等優しく微笑んだ。 「合格…ですか?」 「そう、合格だ。このバトルが終わったら…見せたいものが、あるんだ」 「見せたいもの、ですか?」 「そうだよ…とりあえず、まずはバトルを続けようか」 そう言って、マツバさんは、暗闇に向かい、話し掛ける。 「ゲンガー、お前の出番だ」 すると、元々ボールに入っていなかったゲンガーが、闇から溶け出てくる。 シシシ、とゲンガーは悪戯っぽく嗤う。 「蒼衣…がんばって、」 苦手なのもわかってるけれど。 蒼衣なら、大丈夫だって私は信じている。 それを感じ取ったのか、蒼衣は振り向いて小さく頷いた。 |