3 あれからのバトルは、できれば思い出したくないものの連続だった。 私の後ろを見つめて(もちろん何もいない)手を振るイタコさんや、虚空に向かって話し掛けていた(よっぽどスルーしようかと思った)イタコさんたち。 さすがの炬も少しげんなりしていた。 『なぁ、姉ちゃん』 「どしたの、炬」 『あたし、帰ってもええやろか』 「お願い帰らないで」 帰りたがる炬をマッハで引き止め、歩くこと少々。 「やぁ、カナエちゃん。そろそろ来る頃だと思っていたよ」 奥まったその場所に、マツバさんは居た。 「どうも、マツバさん」 昨日と変わらぬ、真意の読めない笑みを浮かべて佇んでいる。 「ねぇ、カナエちゃん。君には、怖いものってあるかい?」 それは唐突に。 マツバさんは、言った。 「怖いもの…ですか?」 怖いもの。 虫の中でも蜂やムカデなんかは怖いと思うし、風船の割れる音だって怖いと思う。 でも、多分、マツバさんが言いたいのはそんなことじゃなくて。 質問の意味を捉えかねていると、マツバさんは口を開いた。 「例えば、そうだね…うちに来る女の子なんかは、よくゴーストタイプのポケモンが怖いって言うんだ…あんなに茶目っ気があってかわいいのにね」 私はゴーストタイプは…と、言うよりポケモンに嫌いなタイプはいないけれど。 「…質問を変えようか。カナエちゃん、君は…僕が怖い?」 スゥ、とマツバさんの目が細くなる。 全てを見透かすような目。 私は…、私はマツバさんが…怖い? 「……いいえ、」 駄目だ、相手に飲まれたら。 「そう…なら、いいんだ。始めようか」 細めた目を笑みに変え、マツバさんは言った。 バトルが、始まった。 |