2 中に入った瞬間、私は激しく後悔した。 「何でこんなに暗いのよー」 扉が閉まればそこは暗闇に包まれ、向こうの方にぽつりぽつりと小さな明かりが見えるだけで。 「マツバさん、いくらゴーストタイプ好きだからって、これ趣味疑うわよー…」 苦手だからかもしれないけれど、自然と愚痴が多くなる。 ダメだダメだ。 勝負する前から弱気になってたんじゃ、勝てるものだって勝てなくなっちゃう。 覚悟を決めてジムに乗り込んだからには、やっぱりいい戦いをしたいから。 「炬、がんばろうね」 足元でひくひくと鼻を動かしていた炬に話し掛けると、 『あたぼうよ』 と、返ってきた。 何だか、すごく心強い気がした。 でも、やっぱり暗闇の中だと少し不安だから、そっと炬を抱き上げると、フン、と鼻を鳴らした。 その温かさに、少し安心する。 こつり、こつり。 靴音が暗闇に響く。 辺りに人の気配はない。 吸い込まれそうな闇の中を歩いていると、このまま永遠に歩き続けるんじゃないかな、なんて。 そんなくだらないことを考えながら歩いていたら、前方不注意。 「おや…挑戦者かえ?」 「…っ?!」 ぬ、とそれは突然目の前に立ちはだかった。 うそ?!人の気配なんてしなかったのに?! 「そんなにびっくりすることもないさね。あたしゃずぅっと、ここに居たよ」 その人物は、白い装束を纏った老婆…イタコ。 エンジュジムの、ジムトレーナー。 「おやおや、よく見たらかわいらしい挑戦者さんじゃないか」 にこにこと、老婆特有の優しい笑みで彼女は言う。 「はぁ…どうも、」 「本当にかわいらしいよ…あたしの死んだ孫にそっくりだ」 にこり、とイタコのおばあさんは笑みを一層深くする。 その笑みに、背筋に冷たいものが走った。 『姉ちゃん、気ぃつけェ!』 炬が吠える。 イタコのおばあさんは、その笑みを崩さないまま、ボールを構えた。 暗闇のバトルが、始まった。 |