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中に入った瞬間、私は激しく後悔した。

「何でこんなに暗いのよー」

扉が閉まればそこは暗闇に包まれ、向こうの方にぽつりぽつりと小さな明かりが見えるだけで。

「マツバさん、いくらゴーストタイプ好きだからって、これ趣味疑うわよー…」

苦手だからかもしれないけれど、自然と愚痴が多くなる。
ダメだダメだ。
勝負する前から弱気になってたんじゃ、勝てるものだって勝てなくなっちゃう。
覚悟を決めてジムに乗り込んだからには、やっぱりいい戦いをしたいから。

「炬、がんばろうね」

足元でひくひくと鼻を動かしていた炬に話し掛けると、

『あたぼうよ』

と、返ってきた。
何だか、すごく心強い気がした。
でも、やっぱり暗闇の中だと少し不安だから、そっと炬を抱き上げると、フン、と鼻を鳴らした。
その温かさに、少し安心する。

こつり、こつり。
靴音が暗闇に響く。
辺りに人の気配はない。
吸い込まれそうな闇の中を歩いていると、このまま永遠に歩き続けるんじゃないかな、なんて。
そんなくだらないことを考えながら歩いていたら、前方不注意。

「おや…挑戦者かえ?」

「…っ?!」

ぬ、とそれは突然目の前に立ちはだかった。
うそ?!人の気配なんてしなかったのに?!

「そんなにびっくりすることもないさね。あたしゃずぅっと、ここに居たよ」

その人物は、白い装束を纏った老婆…イタコ。
エンジュジムの、ジムトレーナー。

「おやおや、よく見たらかわいらしい挑戦者さんじゃないか」

にこにこと、老婆特有の優しい笑みで彼女は言う。

「はぁ…どうも、」

「本当にかわいらしいよ…あたしの死んだ孫にそっくりだ」

にこり、とイタコのおばあさんは笑みを一層深くする。
その笑みに、背筋に冷たいものが走った。

『姉ちゃん、気ぃつけェ!』

炬が吠える。
イタコのおばあさんは、その笑みを崩さないまま、ボールを構えた。

暗闇のバトルが、始まった。


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