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『誰もいないね』

カナエちゃんは、"この建物"じゃなくって、"この建物にいる人"に会いたかったみたいで、「どうしようかな、奥にいるのかな」と呟いていた。
そういえば、カナエちゃんは冒険初めてなのに、どうしてコガネシティに知ってる人がいるんだろ?
不思議に思ったとき、奥の方から誰かが出て来た。

「はーい、どうしたの?」

出て来たのは、前にキキョウジムで戦ったよりも少し年上くらいのお兄さん。

「カイトさん!」

さっきまで疲れた顔だったのに、その人に会った途端カナエちゃんは元気な顔になって。
カナエちゃんの元気な顔は大好きだけれど、どうしてだろう。

なんでか、少し、もやもやしたんだ。

カナエちゃんと、カイトって呼ばれた人は少し話をしている。

『ねぇ、カナエちゃん。この人誰?』

僕の言葉に気付いたカナエちゃんが僕を抱き上げて、僕たちをお互いに紹介した。
違うんだ、僕はこの人のことが知りたいんじゃなくて、

「どうやら俺は翡翠君に嫌われたみたいだね」

困ったように笑ってお兄さんが言った。
嫌いじゃないんだよ。
ただ、ちょっともやもやするだけ。

「普段はすごくなつっこいんですけど…多分、疲れてるかお腹空いてるんです」

カナエちゃんが的外れなことを言うから振り返ったら、カナエちゃんにも不思議そうな顔をされた。
違うんだ。
疲れてなんかないよ。
お腹もすいてないよ。

ただ、少し
もやもやしてるだけ。


この気持ちの名前を、僕はまだ知らない。

お兄さんとの別れ際にカナエちゃんが小さく溜息をついた。
ごめんね、カナエちゃん。


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