No.ラゼル
Date 2012/01/18 10:23
おしるこの美学
「あれ、ダンチョ。珍しいもん飲んでるー」
「今日は寒いからね。たまにはいいかな、と思ってね」
「ふーん。いつもならあんこなんて美しくない、って叫び出す美意識の塊も、寒さには負けるんだ」
「……何か言い方に引っ掛かりを感じるが。それに、僕は別にあんこ自体が気に入らないわけじゃない。和菓子の練り切りなどは美しいだろう」
「じゃあ何が気に入らないのさー」
「何が気に入らないかって?そんなの決まっているだろう、粒あんだよ」
「……は?」
「和菓子において何が重要か……そう、美しさと舌触りだ。先程述べた練り切りなど、その典型だろう?」
「まあ、」
「その点、粒あんはいけない。あの小豆の皮が、全てを台なしにしている」
「……おはぎとかはあたし、どっちかと言えば粒あんのが好きだけど」
「なんてことだ……うちのマドンナが美を理解できないだなんて」
「そもそも粒あんかこしあんかなんて、おいしかったらどっちでもいいんだけど」
「ミモリ君、何事にもポリシーを持つということは大切なのだよ」
「いや、いくらなんでも斜め上行き過ぎだから」
「まったくもって、嘆かわしい」
「聞いてないし」
「……ともかく、ミモリ君。例えそれが食べ物であろうと、自分のポリシーを持つということは大切だと、
「……ねえ、ダンチョ」
「何かね?」
「いや……ダンチョの持ってるおしるこの缶。"粒入り"って書いてるんだけども」
「…………」
「ダンチョ?」
「おしるこ、というのはそもそも粒があってはいけない。粒入りのものは善哉と表記すべきだと、僕は思うわけだ」
「どっちでもいーじゃん、それくらい」
「いや、良くない!おしるこはこしあんで白玉を、善哉は粒あんで餅を、それぞれ入れるのがあるべき姿だ。つまり、この缶入りしるこは邪道だと僕は思うわけだが、ミモリ君、きみはどう思うかい?」
「付き合ってられんわ」
ちなみにおしること善哉の違いは諸説あり、地域などによっても違うみたいなので悪しからず。
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