最近、南沢がおかしい。いくら鈍感な車田でもはっきり分かった。もとから変なやつだがなまえがマネージャーになってからますますおかしくなった。この前まで毎日車田になまえにメール送れだのガンガン攻めろだの、鬱陶しいぐらいにフォローしてくれたのに、なまえと車田の関係に口出ししなくなった。話題にも出さない。それだけなら車田も怒らず、三国の胃痛も治まるのだが、南沢は部活中にも部活が終わったあとにもなまえによく話し掛けるようになった。つまり車田は態度で分かりやすい人間で、南沢は行動で分かりやすい人間だったのだ。

「やっぱ、俺なまえ好きだわ」

久々になまえのことを話題に挙げたと思えば、全く予想通りだと三国と天城が顔を見合わせた。車田は悪気も無さそうに真面目に話す南沢をむすっとしながら見ていた。三角関係なんて大それたものではないが、付き合っているどころかお互いの気持ちを伝えてもいない二人だ。少しでも隙があれば南沢はなまえを奪おうと虎視眈々と狙っている。それどころかもう食いに掛かっているのだ。うっかりなまえの心が南沢に傾くことだってありそうだ。

「散々車田をけしかけておいてこれだ…」
「恋はいつ始まるものか分からないんだぜ三国」

その飄々とした言い種に三国は呆れるばかりである。それにしても気にかかるのは車田だ。さっきからしかめっ面しかしておらず、短気な彼はいつプチンとキレるか分からない。三国は今のうちにストレスを発散させてしまおうと慌てて話し掛ける。

「な、なぁ車田、お前も南沢になんとか言ってやれよ」
「………」
「車田?」
「名字は俺んだ」

赤面しながらもキッパリ言い放ったそれに南沢が「痺れるねぇ」と茶々を入れた。ここで車田はもう堪忍袋の緒が切れ、暴走機関車のような勢いで南沢を追い掛け回していた。

「あいつら仲良いのか悪いのか分かんないド」

ある意味ではすっきりした三角関係だ。天城の呟きに三国は何度も頷いた。
二人が教室から出ていくのと入れ替わりに、なまえが反対側のドアからおっかなびっくり入ってきた。きょろきょろと全体を見渡して三国と天城を見付ける。

「あ、三国くん、天城くん今日はミーティングルームに集合だそうですので連絡に来ました」
「おお、分かった」
「く、車田くん…と南沢くんはどこですか?」
「いっ今用事で出かけたド」

天城は曖昧に誤魔化した。二人はお前を取り合ってそれでうんぬんかんぬん…その真実は言っていいものではないだろう。曖昧な答えだったがなまえは少し残念そうにしながらも納得していた。車田と南沢に伝えておいてくれと丁重に頼むと小走りで教室を出ていった。どうやら別の教室へ向かったようだ。

「車田と南沢がいなくてよかったな…」
「だド…」





ミーティングルームに集合と言われても一年生には何を言い渡されるのか分からない。伝達を任せれたなまえも知らなかった。二年生と三年生はそれとなく分かっているようだが決していい顔はしていなかった。緊張気味の不穏な空気が流れている。その空気に流されて一年生も静かになっていた。そんな中、久遠監督がモニターの前で口を開く。

「今度の練習試合は、自由に試合が出来る」

ほっ、と息を吐き出す二、三年生。それでも一年生には意味が理解出来なかった。自由に試合をするのは普通のことではないのかと首を傾げる。意味を聞きたいが雰囲気が雰囲気なだけに誰もなかなか聞き出せない。
ざわめく一年生に向けて久遠監督はこう続けた。

「中学サッカー界は今、フィフスセクターという組織に支配されている。分かりやすく言うと点数指示が出て、私達はそれに従う。他にも様々あるが…」

淡々とフィフスセクターについての説明が続く。なまえは久遠監督の言葉の端に憤りがあることを感じていた。今のところ従順に従っている雷門に被害は出ておらず、無事にサッカーが出来ている。だが逆らってしまえば、サッカー部はどうなるかは保証できない。進学まで左右されかねない。それが今のサッカー界の真実であり現状だ。そんなのおかしい、何とかしなければと言い出したいが、先輩たちのためにも、従うしかないのだ。また空気が重く沈む。久遠監督の隣に立ってその空気をひしひしと感じていたなまえは焦った。この士気が下がったままでは勝てる試合も勝てないだろう。

「でっ、でも、今回は自由なんですよね?」
「ああ」

力強く頷く久遠監督に安心を覚えた。それは車田たちも同じようだった。自由ならば、勝ちたいと誰だって思う。なまえの目が「勝ちましょう」と言いたげに部員を見据えていた。

white.8
Would like to win.




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