一方ちょっぴり積極的な内容のメールを貰ったなまえはなまえでどぎまぎしていた。メールアドレスを聞かれた時点で胸が破裂してしまいそうだった彼女には、ある意味で追い討ちだった。車田からの突然のメールにあまりに慌てて、深く考えずにすぐに行くと返信をしてしまったことを後悔していた。厚かましく思われてないだろうかと不安だった。

「はぁ…」

そして上の空だった。
ほんの少しだけ異性を遠ざけていたなまえがロココ事件発生後、恋をしたことに喜んだ友人だったがここまでぼんやりした様子を見たことがない。車田剛一のどこに惚れたのか、まったく一目惚れとは厄介なものだ。ただサッカー部を見に行くだけ、それだけなのにも関わらずなまえの浮かれっぷりはすさまじい。授業中も窓側なのをいいことに空ばかりを眺めていた。今にも「車田くん…」と呟きが聞こえてきそうだ。階段を登り降りしたら間違いなく踏み外すような状態を心配した友人一人が声を掛けた。

「なまえ!」
「は、はいっ」

突如呼ばれたなまえの返事はもちろんひっくり返った。ここまでのめり込んでしまうのはあまり良くないことだと友人は知っていた。いくらお誘いを承けたとはいえ過度な期待は良くない、となまえに分かりやすく説明を始めた。

「ここの中学サッカー部強くて有名で、厳しいらしいじゃん。先輩でマネージャーやってた人も忙しくて辞めたらしいし、次になまえに目星をつけて見に来いって言っただけかもしれないよ」
「………。」

特に何かを期待していた訳ではない。単に車田に誘われたことが嬉しかったのだ。しかし衝撃的な友人の話を聞いて今度は黙って机を見つめる作業に入った。友人は現実をいきなり突き付けてしまい失敗したと思っていたが、逆に彼女の頭の中にはある考えが浮かんでいた。それならいっそのことサッカー部のマネージャーになってしまえばいいのではないか、と。車田に毎日会えるし、何より小さいころからずっと屋内にこもって読書ばかりしている自分を変えたいと思っていたのだ。これは滑降の機会ではないだろうか。サッカーのルールはあまりよく分からないけれども、これからちゃんと勉強すればいい。忙しくても構わない。何かしら役に立てることがあるはずだ。

「でも、見に行きたい!…だ、だからさ一緒に行かない?」

ぱっと顔を上げていつもより少し大きな声で言った。やはり一人で見に行くのは怖かった。何せ慣れない男ばかりの環境に足を踏み入れることになる。誘われた友人は案の定「遠慮しまーす」と頬杖をつきながら断るのであった。それから数人に声をかけてみたが、部活動などの用事で全て断られた。なまえはなんだか心が折れそうになりながらも結局一人で行くこと決心をした。…それでも見に行くだけだということを頭の隅に置いて欲しい。





「車田、来てるぞ」
「わ、分かってるって」

車田は三国とパス練習をしながら、礼儀正しく久遠監督に挨拶するなまえを見付けていた。その後少し居心地が悪そうにベンチの端にちょこんと座る姿はこういう環境に全く慣れていないことを示していた。やはり見学に誘ってよかった。あのメールの内容を考えたのは天城でもなく、三国でもなく、ましてや南沢でもない。車田だった。初メールの内容をどうしようかとチームメイト三人に相談を持ち掛けかけたが、三人がああだこうだ言い合ってる内に一人で椅子に座って例の一文を打ち始めたのであった。やんちゃな車田を羨ましいと言った、外の世界と関わりがなかったであろう彼女の為に。車田にはなまえの友人が考えたような思惑はなかった訳だ。

「あ…」
「…。」

転んだ選手を見て心配そうな声を漏らすなまえをちら見した無表情な久遠監督の思惑は分からないが。

white.3
Only goes to see.




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