「はー、ほんとあんたらかわいい!かわいすぎてこっちが照れるわ!」
「ううっ…」

昨日メールを送ってくれた南沢ファンクラブ一号、もしくは面食いとも言う。二つの肩書きを持つ友人に、さあさあ白状しなさいと問い詰められて堅く閉じておくはずだった口はあっさりとギブアップを告げた。車田とのことに関しては全て赤裸々に暴露してしまった。暴露してしまった、と言うよりは友人の気迫に気圧されて暴露せざるを得なかった。最終的に可愛いと言われなまえの恥ずかしさは頂点に達しそうだった。

「それを聞く限りじゃ、ぜーったい車田くんもなまえのこと好きね。早く告白しちゃいなさいよ。ていうかもう半分カップル。バカップル」
「なにそれ投げやり!」
「だまらっしゃい」
「うっ」

ぺちーんとデコピンを食らった勢いで後ろにのけ反りそうになった。そのお陰で恥ずかしさボルテージは半分まで急降下した訳だが。
面食いで陸上部でスタイルよくて美人で面倒見いいくせに、横暴だ!凶暴だ!…と言うと何倍にもなって返ってくるのを知っているので大人しく口をつぐんで額をさする。そんななまえを見ながら友人は麗しい頬を歪める頬杖をつき、またなにか探りを入れるように前のめりになった。

「で、南沢くん関連何かない?」
「でたー」
「一つ屋根の下で三日間も一緒に過ごしたあんたに聞きたくもなるわよ」
「うーん…なにかって…」

なにかって、なにかって、そりゃあ大アリでしたけども。
前のめりになる友人に反してうつ向き加減になる。その視線の先では無意識のうちに人差し指同士がくっついたり離れたりしていた。友人に嘘はつきたくない。しかし彼女は南沢のファンなのだ。こればっかりは口を割るわけにはいかない。お風呂上がりの南沢くんすっごくかっこよかったよ、とかなんとか上手いこと言って誤魔化そうとした。

「ちなみに誤魔化しは通用しないからね」
「えっ、そんなことしないよ…」
「ほんとかな」

友人は先ほどのふざけ半分はすっかり切り換え、真剣モードに入っていた。やれやれとわざとらしく首をすくめる。完全に見透かされてしまっている。彼女には嘘も何も通じないと諦めたなまえは、ついに本日二度目の口を割ってしまったのだった。

南沢の告白の様子をこと細かに説明すると、真剣モード一変、話の区切りごとにキャー!と黄色い悲鳴を上げながら机をバンバン叩き興奮していた。今が騒がしい時間帯の昼休みで本当によかった…となまえは友人の様子を見ながら思った。とてつもなく言いにくい説明が終わると徐々に友人の興奮も収まり、やっと普通に話せるようになった。昨日は卒倒するのではないかと心配していたが、さすがにそれはなかった。なんとか過呼吸なりかけ程度で済んだ。

「うん…うん…うらやましいと言うべきなのか…」
「ごめん!なんかごめん!南沢くんのファンなのに自慢みたいなこと言って!」
「いいの、無理矢理言わせたの私だから」

ふー、と一つ息をはいた。

「勘違いしてるかもしれないから言うけど、ファン、イコール好きじゃないから。私がジョニーズのファンなのと同じ!それに、南沢くんとなまえが話してるの初めて見たときから分かってたし。南沢くんなまえに気があるって」

彼女の爆弾発言に、なまえはあんぐり口を開けたまま動けない。気付いていていたということに友人と多からず少なからず経験値の違いを感じる。重大なことを飄々と言ってのけた友人は、長い会話で放置してあったポッキーにようやく手をつけた。極細タイプのそれを咀嚼しながらなまえの硬直した表情をおもしろそうに眺める。「ポッキーちょうだーい」と鳥のヒナのように寄ってきた南沢ファンクラブ二号にエサを与えた。そして、二号のポッキーが無くなるころに、やっとなまえは覚醒したのだった。

「なんで言ってくれないのおお!」
「言うわけないでしょお馬鹿さん。言ったところでどうにかなるとも思えないしね」
「うぐ…ごもっとも…です」

勢いで机を叩き立ち上がったはいいものの、やはり言いくるめられる。友人の人差し指に連動するようにしてしょんぼり元の椅子へ腰を降ろした。

「それで?あんたと車田くんがくっつかない限り狙われるってことでしょ」
「うん…」
「つまり、そうよ、話はふりだしに戻る!車田くんとくっついちゃえばいいの!」

スパーン!と心地よい擬音を背後に浮かべて極論を出した。自分でもそうなればいいのではないかと思ってはいた。しかし改めて人に言われると恥ずかしい。一気に顔に血が集まり、大混乱を引き起こしそうになっていた。

「それは!ちょっと無理というかなんというか!」
「さっき言ったでしょ、車田くん絶対なまえのこと好きだから。大丈夫」
「全然だいじょばない!」

ついにオーバーヒートを起こして机に突っ伏した。
こりゃ前途多難かしら…?と呟いた彼女の声は既になまえの耳には届いていなかった。

white.20
A good friend never offends.




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