初日の短めの練習が終わり、部員たちはさっそく勉強合宿らしくを勉強を始めていた。わかんねーよー!と頭のよくない先輩が頭のよい先輩に泣きついたり、ある人は英文を音読したりで結構騒がしい。一年グループでは頭のよい三国と南沢のうち、優しい三国の方に質問が集中した。南沢は元から質問出来そうにもない雰囲気を出しているが、今日は一言で言い表せない悩んだような物凄い形相をしていたため、更に人が集まらなかった。
そんな南沢が何を考えているかといえば、この合宿を機になまえの恋心を車田から自分に向けさせてしまおうと考えていた。作戦実行のためには、まず車田の目の届かないところで二人きりにならなければいけない。そうしたらああしてこうして…、どこまでも考えは進化する。

「どうした南沢、むすっとして」
「別に」

南沢のむっつりとした顔は隣に座っていた三国を心配にさせた。三国は大きな手で、ぐりぐりと成長しない南沢の頭を撫でる。三国にとっては励ましのつもりだったが南沢はそうは思っていなかった。身長が高いやつに可愛い可愛いとされてるようで気にくわなかったのだ。「撫でるな」と悔しい南沢はクールにその手を払い除ける。そこにちょうどよく通りすがった背の高い先輩。面白半分で南沢の頭を触って行く。さっきの大人っぽい思考はどこへやら、これには流石の南沢も毛を逆立てて怒った。色気があるにはあるのたが、身長が足りないのが南沢の最強のコンプレックスだったのだのだ。

「いいかお前らの身長なんてな…!」
「あの…どうしたんですか?」

どこかに用事があったのか、席を立っていたなまえはそう言いながら戻ってきた。なまえの身長は南沢よりほんの少し小さいか同じぐらいだ。変わらず不機嫌そうな表情で、寄ってきたなまえの頭を乱暴に撫でる。女と比べてどうすると思ったが、小さい自分への慰めはこれぐらいしか出来なかった。
いきなり頭をわしわしとされたなまえはキョトンと目の前の南沢を見ることしか出来ない。恥ずかしさよりも驚きが上回った。南沢の某カードゲームのような瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。

「み、南沢くん?」
「三国も先輩も俺のこと虐めるんだ」
「えっ!イジメ、ダメ、絶体、ですよ!」

小さな妹が小さな兄を守るような姿は周りの人間を癒しの空気で包んだ。が、車田にはそうもいかない。イライラオーラを出している車田を三国が必死になだめ、思いがけず点を稼いだ南沢はなまえの後ろで不機嫌一転しめしめと笑っていた。

「いいですかみなさん、虐めは最低な行為で…」
「名字、よく分かったからこの理科の問題教えてくれないか?」
「あ、はい」

だが車田があっさり奪還した。頼まれると断れないなまえの性質が上手く働いた。今度は南沢が発するイライラオーラを必死に押さえる三国なのだった。


夕飯の時間を知らせに、久遠監督が部屋に入ってきて午後の勉強会は終了した。理科をさっぱり分かっていなかった車田に根気よく教えて、やっと理解してもらえた頃だった。のびのびと背中を伸ばすと背骨が鳴る。何度も反復したお陰でなまえは理科の範囲を丸々暗記してしまった。教科書などは机の上に置きっぱなしに、部員達は食堂に集合する。座席は自由だったので、自然と勉強していた時のグループで固まって着席した。ところで夕ご飯は誰が作ってくれたんだろう。手伝わなくてよかったのか。なまえはキッチンの方を体をのけ反らせて覗いてみた。しかし物陰になっていて見えない。ただ一つ確実に、久遠監督ではない。絶対に。
「いただきます!」前に出ていた三年生のキャプテンがそう言うと一斉にがっつき始めた。やっぱり育ち盛りだなーとおばさんのような事を思いつつなまえもカレーを口に運ぶ。

「おいしい!」
「だよなぁ」

三国となまえはカレーについてのしゅふ的な談義を始めた。天城も車田も南沢も飛び交う調理用語についていけない。ただ一つ納得出来たのは、カレーは一日置いたほうがおいしいという話だった。

「俺おかわりしてくるド」
「俺も行く」

南沢が半分食べきり、水を飲んでいたところで、カレーをぺろりと平らげた天城と車田はさっさとおかわりに行ってしまった。三国もなまえもまだ談義を続けていて南沢はポツンと取り残される。天城と車田は食べるのが異常に早い。しかも味わっているのかさえ分からない。カレーは飲み物じゃない、と心の中で呟いた。

「それじゃ俺も行ってくる」

だらだらとなまえと話していた三国も遂におかわりに向かった。南沢はやっと食べ終えたばかりだった。しかも腹八分目まで来ていて、二杯目を全て食べられる気がしない。天城のぽっちゃり体型はともかく背は高い。三国も背が高く、車田はガタイがいい。なるほど、圧倒的な体格の差は食事から来ていたのか…と南沢は一人ごちた。

「私もおかわりしようかなー」
「え?」

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