朝からから曇っていた空。午後になってついに我慢できずにぱらぱらと泣き始めた。勢いよく降るわけでもなく、やむわけでもなく、歯切れの悪いじっとりした雨が放課後になるまで降り続いていた。
なまえは家に帰ろうと生徒玄関付近でお気に入りの水色の傘を広げていた。楽しみがあるなら、雨も悪いものじゃない。雨の道をのんびりと歩き始めた。それとは裏腹に、早足で歩いて行く人間がなまえの横を通りすぎた。
「エドガー発見エドガー発見」
「はい?」
電波少女、おちょくったようになまえは笑った。傘をさしていないエドガーの水色の長い髪と制服はじっとり湿っていて重そうだった。
「傘、無いの?」
「英国紳士は傘をささないんですよ」
「へんなの。一緒に帰ろう。風邪引くよ」
はい、と目の前に傘を突き出した。周りに寄ってくる女子は英国紳士を尊重してくる。しかしなまえにとってエドガーの英国紳士のプライドは関係がなく、体の健康のほうが大事らしい。悪気もなく見つめてくる瞳に押し負け、エドガーは傘に入ることを決心したようだった。英国紳士は呆気なく折れた。
「その…ありがとうございます」
「気にしないで」
身長的に傘を持つのを頼まれたエドガーは、元気に水溜まりを飛び越えて傘から外れたなまえを追いかけた。二人の足元で水が跳ねる。
「大人しく歩いてください」
「はーい」
黙って歩き始めたなまえは静か過ぎて不思議な感じがした。自分の肩がなど濡れてもどうでもよかったので傘をなまえの方に傾けた。それを見たなまえはぴたっと肩を並べてきた。気にするなと言いたいのだろうか。
「ママがね、日本では好きな人と“相合い傘”をして帰るんだって」
「相合い傘?」
「二人で傘に入ること」
それが今の状況だということを、エドガーはまだ気付いていない。


110607
―――
梅雨ですね。



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