※気持ちR15




「飛鳥さん」
「はい」
「今日はクリスマスですね」
「そうですね」

クリスマスを右から左に受け流してスルー。頭の中に留まらなかったクリスマスは床に落っこちてばらばらに砕けた。一緒に私の心も砕かれた。なんてったって今日はクリスマスだ。恋人達の一大イベントだ。しかしこんないい歳のカップルでクリスマスどこにも行かないという大罪を犯そうとしているのだった。飛鳥のこの態度を見ていると、アメリカがクリスマスを大事にしているのが嘘だと思えてきた。実質一歩街に出れば大騒ぎで、嘘ではないのだが。
ふぅ、と重いため息をついてクッションを強く抱き締める。相変わらず飛鳥は雑誌を調子よくめくるだけだ。あ、一ノ瀬くん発見。秋ちゃんと一ノ瀬くんは今頃どうしてるだろう。やっぱりクリスマスだから出掛けるに違いないよね。照れる秋ちゃんと手を繋いで元気よく一ノ瀬くんが連れ回してる様子を想像できた。それに比べて、なんだこの仕打ちは。何故家でくつろいでいるのだろう、私達は。だけどケーキも買ってるし、ツリーもある。飛鳥もプレゼントは…買ってくれてる、はず。その他をねだろうにもこの歳じゃ、ねぇ?

「飛鳥ぁああ」
「うおっ」

遠回しに出掛けたいと言うことも口下手な私には出来ないし、もやもやした気持ちをどうにかしたくて、とりあえず後ろから細い体に抱き付いた。背中に頬擦りをする。

「なまえー」

振り返ってぎゅうううと抱き締めてくれた。ああ、愛されてる。これだけで幸せだ。やっぱり、これ以上何も望まないよ。

「んじゃ、そろそろどっか出掛けっか」
「え、と、どこにも出掛けないんじゃ…」
「何言ってんだよ、クリスマスだぞクリスマス。一ノ瀬の記事も読み終わったし準備万端だ」

ぽんぽんと軽い調子で頭を叩かれる。そりゃ大事な親友の記事を真面目に読むのは結構ですけども。全ての感情を通り越して反応が出来なくて硬直した。笑ったままの飛鳥が「ん?」と言った頃にやっと覚醒する。

「ええっ!ちょっと待って私まだメイクもなにも…出掛けるなら先に言ってよ!」
「はいはい悪かった悪かった」

なだめるようにまた抱き締めてから、背中を擦る。まるであやすような行動に子供じゃないのに、と思ったが、反抗が出来なかった。それどころかそれを甘受してしまう。感情が落ち着いて来た頃、背中を擦る優しい手付きが怪しいものに変わったのに気が付いた。

「ちょ…あ、飛鳥さん?」
「んー」
「あの…ブラの辺り触らないで下さい」
「なんかムラムラする」
「返事間違ってる」
「いいだろ別に」

逃げようとじりじりと後退するが、手に力負けした。さらにその手が服に侵入して来るものだから堪ったものじゃない。肌に大きな手が直接触れ撫で回される。ついにブラのホックに手が掛かって器用に外された。昼間っから恥ずかしくて、飛鳥の胸板を押して顔を背けて反抗するがどうにも敵わない。

「でっ出掛けるんじゃなかったの?」
「そのつもりだったけど、無理。午後からは駄目か?」

ここでイエスと言ったなら問答無用で事が進むだろうし、ノーと言ったら、その、飛鳥が辛そうだし。返事に戸惑っていると、首筋にがぶりと来た。そのまま舌が這って甘い感覚が全身を痺れさせる。

「満更じゃねーみたいだな」
「…んの…調子に、乗らないでよ!」

飄々とした態度の彼の頬をべちっと平手で殴った。迷っている場合ではない。散々良いようにペースを持っていかれるばかりでは、私の気が済まないのだ。

「夜までお預け!準備してくるから、それまで処理しておいてよ!」

あまり強くは叩いていないのだが、今度は逆に平手打ちされた飛鳥が驚いて硬直していた。滅多に手は挙げないし、当然と言えば当然だ。勢いに任せて、居間を飛び出した。




「くくっ…」

夜まで、と言ったのがなまえの甘い所だ。下着は何色なのかとか、サンタコスプレイもいいな、なんて色々考えた。聖なる夜に邪な考えだな、俺は。ポケットを探って、小さな箱を取り出した。中にはもちろん、クリスマスプレゼント兼のあれが入っている。さて、どのタイミングでこいつを渡すべきか。と言うか、その前に。

「クリスマスに一人で性欲処理ってのも虚しいな…」

やっぱ何事も夜だよ、夜。



111225 クリスマスにムラムラする法則



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