カラランとナイフが皿に置かれたのをキッチンからサンダユウは見た。彼女はフォークはくわえたまま頬杖をついている。不味かったか?と訪ねると「別に」と器用に答えた。それはそうだろう、不味い訳がない。美味しいと思って貰えるように作ってるのだからと自画自賛気味になった。彼女はくわえていたフォークを空の皿の上に置いて頬杖のままお茶を一口啜る。行儀悪いことこの上ない。
こうして俺が料理を振る舞うようになったのは少し前、こいつが単なるカロリー摂取だと言わんばかりに無表情に食事をしているのを見た時。あまりにイラついて無理矢理手を引いて自室に連れてきたのが始まりだ。将来軍人になる身としてはそれが当たり前なのかもしれないが、本来食事とは楽しく美味しくあるべきものなのだ。決して不味くはない王牙学園の食事を騒がしい大勢のなか一人で黙々と食べている様子を見ていると、こちらの気が滅入った。俺自身が料理好きなので尚更だ。マンツーマンでなんとか食事の楽しさを思い出させてやろうと思ったんだ。
さて、今日はどうしたのだろう。食べ終わったらごちそうさまも言わずにさっさと自室に戻るはずだ。ここにいるのを引きずるようにずっとお茶を啜っている。

「………」

もしかして、もしかするかもしれない。冷め始めていたロールキャベツの入った鍋をもう一度火に掛けた。まだ彼女は椅子に座っている。


×××


湯気が沸き上がるロールキャベツの入った皿を置くと、ごとりと重い音がした。身を乗り出して中を眺める。本日二度目の映像だ。だがこちらと目を合わせて、驚いたようにパチパチと瞬きをするのは違った。

「食え」

そしてこのやり取りも二度目だ。向かい側の席に腰を降ろした。暫く迷ったようにしていたが、空の皿に置いてあったナイフとフォークを持ち出すと、いただきますも言わずに食べ始めた。持ち方は合っているが、いつもながら食べる動作がたどたどしい。

「なぁ、おかわりしたかったんだろ」
「……」

ゆっくり咀嚼しながらこくんと頷いた。やはりそうだった。なかなか言い出せなくて黙っていたらしい。なんだ、可愛いところもあるじゃないか。おかわりがしたいと言うことは少なくとも美味しいとは感じていてくれたようだ。美味しくないものはおかわりなんかしない。ある意味進歩たが、まだ楽しそうとは言い難かった。点数にするなら四十点ぐらいだな。たとえば笑いながらおいしいと言ってくれれば、百点なのに。

「………」

一切笑うようすもなく、喋る訳でもなく、もぐもぐと食べ続けている。でも、今はまだおいしく食べて貰えるだけでいいかと思えた。


111114 ナイフとフォークと空の皿

title コランダム



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