トリックオアトリート。お菓子かイタズラか。すっかり定着してしまったハロウィンの合言葉がお日さま園で言われまくっていた。チビたちはお菓子をあげたり貰ったり忙しい。そう言えばあいつも小さい子にあげるんだと言ってクッキーを焼いていたっけ。それにしても馬鹿らしい。テレビを点けて番組を変えても、こっちはこっちでおにーさんやおねーさんが仮装して街中で馬鹿騒ぎをしている。いい歳して恥ずかしいと思わないのかねぇ。

「おねえちゃんもういっこ!いっこだけ!」
「だーめ。みんな一人ひとつ」

おねえちゃんと呼ばれているあいつは、お日さま園の古株とも言うべきだろうか。長年居るってことはそれだけ親と過ごした時間が少ないってことだ。親が居ない寂しさを知っているから、チビたちに優しく出来る。親代わりになりたいんだといつか話してくれたっけ。

「ケチ!」
「ケチじゃない」
「妖怪ババア!」
「なんですって?」
「うわぁああにげろっ」

こうして怒るとこまで親代わりだった。チビは本格的に怒られる前に逃げ出した。ガキの小さい脳にしては懸命な判断だと思う。短気なババアの拳は宙に振り上げられたまま行く先を見失っていた。しょうがないなぁと言うようにため息をつき、他のチビにクッキーを配り始めた。あいつの作るクッキーは割りと美味しいのでチビたちには人気がある。本人もそれを自負しているらしくイベントごとにクッキーを作っていた。

「よしよし」

そう言って満足そうに配り終わったようなしているが、袋詰めのクッキーがたくさん乗っていた盆の上にはまだ一袋残っていた。それはどうせ、基山ヒロトにやるんだろうな。あいつは基山ヒロトが大好きなんだから。そう思うと胸がモヤモヤした。そのクッキー寄越せなんて口が裂けても言えないし。そっぽを向き、頬杖をついてテレビを観ているふりをした。

「トリックオアトリート!」
「…は?」
「はい、最後はマサキくん」

ぐいっと押し付けられたそれを勢いに流されて思わず受け取ってしまった。呆然としまま、盆を持って大きく伸びをしているあいつと交互に星の形のクッキーを見る。クッキーは綺麗に焼き色がついていて美味しそうだ。でもたしか、トリックオアトリートって貰う方が言うんじゃなかったか。まぁ、何はともあれ、嬉しかった。これはヒロトにじゃなく、俺へのクッキーだったのだ。

「さぁて次はヒロトさんにプリン作らないとなぁ」

…ああ、そうかい俺達とは別個でプリンですか。
こっそり幸せを噛み締めていたのに、言葉だけであっという間に谷底へ突き落とされた気分だ。うきうきとキッチンに駆け出す後ろ姿を見送った。クッキーが小さい子に、プリンは基山ヒロトに。つまり俺は小さい子に分類されているらしい。

「………」

やけになってクッキーを一気食いした。


111031 ノット・ハッピー・ハロウィン!



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