王牙学園の恋愛禁止学則が出たのはつい最近のこと。どうやら色恋に現を抜かして訓練が身に入らない、講義を聞いてない、などなど多数居たようで。あの厳しく冷静な教官も怒り狂う…まぁ大抵いつも怒っているように見えるが、それも頷ける現状だ。成績第一の学園にはとても困った問題なのである。しかしそのような形だけの決まりを作っただけでは十代の恋愛は止められないらしい。青春という青春のまっただ中なのだ。例に挙げるならば学園内の半数以上のミストレーネの取り巻きだろう。休み時間になるとミストレーネを見に教室から女子が消える、端からみたら摩訶不思議な現象も起きる。いい匂いのする女子が消えると鍛えられた男子だけの教室はどうにもむさ苦しかった。当のミストレーネにはさっぱり恋愛の気はないらしく、持て囃されることだけが楽しいようだ。やはり質が悪い。
恋愛禁止とでかでか表示して浮かぶモニターを穏やかではない表情で眺める。その前を手を繋いだ幸せそうな男女が通った。はあ、と溜め息が出た。恋愛禁止にした意義はやはりまったくない。その直後モニターを覆うように目の前にバダップが現れた。無表情なのでシュールだ。

「バ、バダップ」

「びっくりするよ」と言うとまた無表情に「すまない」と返された。

「どうした。こんなところで」
「どうしたもこうしたも…恋愛禁止出たのにみんな白昼堂々過ぎじゃないかと思って」

通り過ぎて行った男女をジト目で見る。バダップも私の視線の先を追った。仲良く歩く姿はまさにラブラブの鏡であった。それを見たバダップは手を打ち、「おぉ」と短く感嘆の声をもらした。この人、アクションが古い。

「禁断の恋ほど燃えるものらしいからな」
「そんな言葉どこで覚えたの」
「メディア情報だ」

いくら色恋に疎く見えるバダップでも流石にそのような知識は持ち合わせていたらしい。そう考えるとメディアの力は絶大である。

「もしかしてなまえ、カップルが羨ましいんだな」
「な…」

いきなり微妙に核心を突く一言。バダップは珍しくにんまり笑って、慌てるこちらを見詰めてきた。なんなのその「大当たり」みたいな顔は。悔しいがバダップは観察眼にも優れていた。私の心境など観察しなくても常にお見通しなのだろう。それに、いちいち行動が格好良いからムカつく。

「違うって言えば嘘になるから否定はしないよ」
「ほう。なまえという優等生も学則を破るんだな」
「破ってない」

優等生、学則を破る、この言葉にむっとした。別に私は優等生のつもりはないし、破ろうったって破れる学則じゃない。そうバダップに反論した。

「…そう言うバダップはす、好きな人とか、いない、の?」
「俺、優等生やめようと思う」
「話聞いてる?」

緊張しながら聞いているのに、人の話を聞かず上の空になるバダップに呆れた。頭のいい人って必ずどこか抜けているような気がする。使い方間違ってるかもしれないけど、馬鹿と天才は紙一重ってやつだ。

「優等生、やめる。学則破って、恋愛することにした」
「あーはいはい。勝手にして」

もう付き合ってられない。そろそろディベートの時間だし、教室に戻ろう。

「待て。お前も破れ」
「バダップは相手探せば余るぐらいいるかもしれないけど、私には…」
「俺はなまえと学則を破る」

一瞬時間が止まったように思えた。その意味を飲み込んだ途端に顔が馬鹿みたいに熱くなった。今バダップにはゆでダコみたいな私の顔が見えているに違いない。

「なまえ、俺のこと好きだろ?」
「…バダップの観察眼、怖い」

またバダップは「大当たり」と滅多に動かない口を三日月型に曲げて笑うのだった。


110917 優等生も青春



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