なまえは全くもって不思議なやつだった。この学園には、女子に絶大な人気を誇る美少年のミストレや、男子に支持されている天才参謀エスカバ、容姿と身体と頭脳、全てを兼ね備えたバダップがいるというのに、俺のことが一番好きだと言って聞かないのだ。思いを伝えようとしない控え目な人間が多い王牙学園では非常に珍しいやつだったとも言えよう。殺伐とした学園の中で明るくいつでも笑みを絶やさなかったなまえはバダップ達にも慕われていた。なまえと話すときばかりは、刺々しいエスカバも、商売用の笑顔だけのミストレも、無表情なバダップも、柔らかい笑顔を見せていた。そんなやつが美少年でも天才でもない、目立ちもしない俺に付きまとう。なまえに好意を抱いている生徒から睨まれることもあった。挙げ句、ミストレにも「俺のなまえに、手ぇ出さないでくれる?」と青筋を立てて言われる始末だ。バダップもエスカバも文句こそ言わないがそんなオーラをかもし出していた。こいつらは厄介、それに気付かないなまえは更に厄介だ。たくさんの嫌がらせはとばっちりだとは思う。しかし笑顔で近付いてくるなまえを適当に扱うことは出来なかった。

「ねぇサンダユウ」
「なんだ」

サンダユウはとても優しい。チームオーガの選手選考に駆り出されたとき、ぼろぼろになった負け組の私を抱き抱えて医務室まで運んでくれたのが彼なのだ。その時の記憶はほとんどないけれど、あの大きな手で撫でられたときの心地好さが忘れられない。
高い身長、後ろでまとめた長い髪、飛び出した少し色っぽい前髪、健康的な肌色、すっきりした目元が好きだ。それから手袋を外したときだけ見える、骨張った長い指が一番好きかもしれない。見ためだけじゃない。サンダユウの大人っぽいところも好きだ。同年代の人と比べると滅多に怒らないし、そもそも怒っているところを見たことがない。ストレスを溜めてるのではないのかと、正直心配なところもある。「戦闘の時は鬼だぞ」とエスカバに迫るように言われたがそれは、私もみんなも同じである。
もちろんバダップもエスカバもミストレも大好きだ。でもそれは、友情あり、愛情ではない。この歳で愛がどうこう言えたものではないかもしれないけど、今の時点で純粋に愛を与えたい、受け取りたいと感じるのはサンダユウだけなのだ。

「サンダユウはどうしたらもっともっと私と愛し合ってくれるでしょうか」
「まずはなまえが服を着るところから始めよう」


110915 その想い、中毒性あり

title コランダム



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