ぎりぎりとサンダユウの褐色の両の手で絞められる気道が苦しい。口を開けて空気を吸い込もうとするけれど、無理な話だった。自分でも気付かないうちに生理的な涙が目の端に溜まって、滑り落ちる。視界が霞む。苦しい、苦しい、苦しい。このままではもうすぐ私は死んでしまう。サンダユウの腕を掴んで引き剥がそうと無理矢理上へ引っ張るが、びくともしない。この時ばかりは男女の体格差を恨んだ。その恨みをぶつけるかのようにサンダユウの手の甲を思いっきり引っ掻いた。それから昨日爪を切ってしまったことをとても後悔した。

「なまえ…」

霞む視界に、常の凛々しい表情を捨てたサンダユウの悲しそうな顔が見えた。私に引っ掻かれたことなどまるで気にしてはいないように呟く。

「なまえ」

ふっ、と首の圧迫感が無くなった。反射的に空気を吸い込む。潰されていた気管が痛いような気がする。サンダユウの手はまだ首にあてがわれていて、またいつでも絞めれるように準備がしてあった。それは分かったが、今は呼吸するので精一杯だった。よだれが出るのも気にしないぐらい。

「なまえの恋人は、俺か?」

こくりと頷く。それは間違いない。

「では、何故ミストレにキスされていたんだ?」
「…それは、ミストレが」

また首が絞まった。あれは、ミストレが私の頬にキスしてきただけなのに。私ではなくミストレの首を絞めてやればいいのに。それが正しい行動だ。

「…俺を不安にさせないでくれ」

もちろんサンダユウの言い分も分からない訳ではない。私だってサンダユウが他の子にキスされているのを見たらショックだ。捨てられるのではないかと不安になる。泣きそうなサンダユウの頬を震える手で緩く撫でた。

「……。」

暫くすると今度こそ首から完全に手が離れた。二回目は絞められている時間が短かったのでそれほど激しい呼吸にはならなかった。身体に股がっているサンダユウを然り気無く退けて、上半身を起こした。

「ごめ…」
「ごめん」

なんとなく謝ろうとしたところで謝られた。

「ミストレが勝手にしたことだって分かってた…。けど、やっぱり俺、くやしくて、嫉妬した」
「…サンダユウにしてはちょっと珍しいかな?」
「…ごめん」
「いいよ、もう」

でもやっぱり首は痛かった。


110907 君に贈る歪んだ愛の形

title 空想アリア



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