この大きな大きな病院は中を、外を、毎日歩いていても飽きない。色んな人がいて、発見も、出会いも、別れもあって。少し幸せな空気と、少し悲しい空気。周りを見渡すと私の病気はまだ楽なんだろうと思う。今にも死にそうな人だっているんだ。

「なまえちゃん、こんにちは。今日も散歩に行く?」
そうそう友達が出来た。サッカーがとっても大好きな、剣城優一さんという人だ。名前の通り優しくて、よく遊んでくれた。優一さんは足が動かないのだと言う。だからいつも車椅子に乗っている。たまに車椅子を押して一緒に外を散歩する。庭でサッカーをしている子供を見ると、優一さんは嬉しそうなそうな顔をした。でも、心では大好きなサッカーが出来なくて辛いんだろうなと思う。それを表に出さないから、見ているこっちが悲しくなった。
「どうしたの?お腹すいたの?」
首を振った。
「どこか痛い?」
これも首を振った。優一さんは人の事ばかり心配をして、自分の心配をしない。自分を大事にして欲しかった。

「“わたしの足ゆういちさんにあげる”」

いっそ、私の足を優一さんにあげてしまえたらいいのに。私が無駄に使うよりも、優一さんがサッカーをして有意義に使えたらいいのに。

「…俺は、俺の声をなまえちゃんにあげれたらいいなぁっていつも思うよ」

「“いらない”」

「じゃあ俺もいらない」

紙に書いた文字は少し震えていた。


110807 優しさだけが支配する



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