「嫌い」
「む」
「おさむなんか大っ嫌い」
「……。」
「どう?」
「どう、とは」
「気持ちだよ、今の気持ち」

本を読んでる今、何故それを聞かれるのか意味が分からない。「嫌い」と言われた時の相手の気持ちを考えるなんて、今時の教育番組でも学べる程度のものだ。答えを待っている様子だったので適当に答えた。

「良いものではないな」
「はっきりしないなぁ!」

大きな声で叫び、眉間にしわを寄せ腕に噛み付ついた。大きな犬歯が軽く食い込んで痛い。ぐるるるる…など唸り声が聞こえて来そうだ。無理に取ろうとすると更に強く噛みついて来るかもしれない。なまえはその性質を持った獣のような人間だった。親が居ないからか、おひさま園にはそんなやつが数えきれないほど居る。

「嫌いと言われるのは誰だって嫌だろう」

本から目線を外さずにまた別の答えを返した。あまり内容が変わらない気がするが。なまえのこの場合の対処法は無視して普通に話し掛けることだ。

「だよね、イラッとするしモヤッとするしイラッとくるよね!」

腕から離れて機嫌よさそうにイラッと、を二回言った。

「『嫌い』ってもう、どうしようもなくて、好きに変換するのはものすごーく難しいと思う。だから私は『嫌い』が大っ嫌いなの」
「『嫌い』が大嫌いか…難しいことを言うようになったな」

もしくは訳が分からないことを言うようになった。嫌いな単語をその最上級で表現するなんて、もう頭が混乱してくる。

「へへ、褒められた。…だからね、私は『苦手』って言って欲しいんだ。こっちは克服出来る感じがしない?救いようがあるって言うか、なんとか出来そうな」
「ふむ…。確かにそれは一利ある。なんでもかんでも嫌いで片付けて何もしようとしないのは現代人の悪いところだ。どうにかしようとしてこそ、人間は発達するものだ」
「さっすが治分かってるね!やっぱりおさむ嫌い!大嫌い!」

ソファに膝立ちをしながら喜び?を全身で表現してくる。嫌いと言っているのに。もう訳が分からないの最終段階だ。

「…嫌いは使わないんじゃなかったのか?」

そう聞くと髪を上に上げて、普段キリッとしてない目と眉をつり上げた。そして不敵に笑う。
一瞬でレーゼの真似だと理解した。

「地球にはこんな言葉もある」

「嫌よ嫌よも何とやら」

漢字は合ってるが、恐らく使い方は間違いだ。


110730



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