*後半ぬるいえろ

「初恋かぁ…」
今日の朝の一連の出来事を話すと、なまえがポツリと呟いた。向き合って宿題をしていたが、不意にシャーペンを投げ出して顔をクッションにもふっと埋めた。そしてソファにひっくり返った。くすくすと笑っている。
「なにかおかしいか?」
たしかに今の年で初恋なんて珍しいだろう。なまえはそんな理由で笑う酷いやつじゃない。それにマルコの性質は十分に分かっている。他に理由があるはずだ。
「なんだか、懐かしくってさ」
一通り笑い終えて満足そうにふーと息を吐き出した。
「初恋、私は幼稚園だったかな。すっごくかっこよくて、サッカーが上手な男の子がいてさ、その子のことが好きだったの。女の子はみんなその子が好きでアイドルみたいな感じだったんだけどね。結局話したことはなかったんだけど、この甘酸っぱい恋は忘れられないなぁと思って」
胸の前でクッションを抱き締めた。目尻の辺りをほんのりと桃色に染めて、うっとりと天井を見上げていた。ソファに広がった髪と合わさってとても扇情的に見えた。それと共にその少年に嫉妬した。十年ほども昔の思い出なのに、未だになまえからこんなに思われているなんて狡いじゃないか。
「そいつが、今なまえの目の前に現れたらどうする?」
「そうだなぁ…もしかして惚れちゃうかも?」
今度は意地悪そうにまたくすくす笑った。本当にそうなら、俺は。
俺もシャーペンを投げ出した。寝転がっているなまえに上から覆い被さって、胸元のクッションに顔を埋める。抱き締める。
「…俺、なまえの恋人ではなくなるかもしれないんだな」
「ううん。そんなことない。その子が現れても、私はジャンルカの恋人だよ」
その一言に安堵して、強張っていた体が解れた。クッションから離れて、なまえの顔を覗き込んだ。綺麗な目だ。
キスの前に、いつも耳たぶを軽く噛む。何かの儀式のようなものだった。ぺろりと耳を舐めると、体の下で身動ぎするのが分かる。
「ジャンルカ…っ」
さっきの桃色とは違う、赤く上気した頬。たしか、舐めるのは初めてだったか。
「気持ち良いだろ?」
「それは…ひゃっ!」
息を吹き掛けるとさらに大きく身動ぎをした。クッションで胸を押されてたが、余りにも力のない抵抗だった。
一度頬にキスをした。それに慌てて正面を向いたなまえと目を合わせる。暫く無言で見つめ合っていた。すると、混乱状態を脱し、落ち着いたなまえは、見開いていた目を細めて言った。
「目…綺麗。あの子より」
「…ありがとう」
一瞬の休息。スィもノも聞かずに唇に噛み付いた。嫉妬と嬉しさとその他諸々がプラスされて、キスがいつもよりもしつこい感じになってしまった。
まぁ、いいか。
「もっと気持ちいいこと、したくなってきた」
酸素を求めて呼吸する、なまえの口の端から流れた唾液を舐め取った。


嫉妬は愛の証

110728



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