「あっつい!」
自転車を、いわゆる立ち漕ぎしながらなまえが前を走っていた。部活帰りは昼頃の一番暑い時間帯で、陽が照っている。坂道が現れるとなまえは練習で乱れた髪を風になびかせながら一気に下って行った。いつもこうやって帰るので相当坂道が好きなんだなと思う。そして坂が終わったら所でいつも後ろを振り向いて俺がゆっくり下って来るのを待っている。そして追い付くとまた走り出す。
「たいちさん、お腹すいたね。今日のお昼何?またチャーハン?」「また、ってなんだよ。文句言うなら食いに来るな。ちなみに今日はそうめんだが」
「またそうめん…」
「来るな」
「ごめんそうめん大好き。行く」
見え透いた嘘に少し笑った。ふと冷蔵庫に冷やし中華の麺があったことを思い出した。それにでもしてやろうかと思ったが、具の準備が面倒なので止めた。部活が午後からの日にしよう。

三十分ほど後、一旦シャワーを浴びに帰ったなまえが、カットされたスイカが入ったガラスのボウルを抱えて徒歩でやってきた。なまえの母さんが切ってくれたものだろう。「スイカ溶けちゃう」と、眉を八の字にして差し出した。受け取ると確かにぬるくはなっているが「スイカは溶けない」。そう言って冷蔵庫に入れておいた。冷えた頃の食後に食べよう。茹で上がっていたそうめんをテーブルに出した。
「なまえ、なんだそれ」
「ラー油。食べるラー油」
そうめんのめんつゆに問答無用に入れられているのは『食べる』ラー油。具が入っているやつだ。白い麺に赤い油が合わさってなんともミスマッチだ。
「おいしいよ」
「信じられん」
「一口」
「いらん」
「否定的」
「味音痴」
ぶつぶつ言い合いながらも、麺はあっと言う間に減って行く。麦茶の氷も小さくなってきた。

「スイカー」
「はいはい今出す」
なまえはスイカにがぶりとかじりついた。赤い果汁が腕を伝って赤い道が出来ている。子供がテーブルと服を汚すのを気にしない食べ方だ。でも子供っぽいとは違って、がさつと言った方が正しいかも知れない。いつか普通に女の子らしく食べてくれる時が来ますようにと祈りつつ、スイカを一口。

「甘い」
「ね!」


110710 夏の昼



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